2021年6月12日18時より、「三大介護こそ尊厳を守るケア」ということで、三好春樹さんのセミナーを開催いたしました。

今回はその様子を、全5回にわたってお届けします!

実際の雰囲気を感じてみたい方、より詳細な話を知りたい方は、ぜひこちらの動画をご覧ください!

5月6日には、「三好春樹と排泄ケアを考えるアウケアツアー」ということで、排泄ケアについてのお話をいただきましたが、今回は、排泄ケアに加えて、入浴ケア・食事ケアを含めた三大介護について、お話をいただきます。

〈#5の目次〉 ■近代的な人間観から介護を考える ■「欲求段階説」とは? ■「自己実現」は本当に最終地点か ■日常生活の中に、その人の「尊厳」はある ■終わりに

■三好さんが紹介した本

動画42:44

■近代的な人間観から介護を考える

今ここでできることがいっぱいあるわけです。薬に頼ってばかりはダメですね。なぜ薬に頼るのか、これはいわば近代科学に対する信仰ですね。幻想が現れては幻滅させられる、この繰り返しっていうのは、資本主義の論理そのものだろうというふうに私は思っています。三大介護からなんでみんな逃げようとするのか、ということの背後にも、私は近代的な人間観っていうのがあるだろうという風に考えていています。

それは、マズローという人の「人間性の心理学」という本に理由があります。世界的ベストセラーで、第二の聖書なんて言われた本ですね。皆さんこの本のことは知らないかもしれませんけど、マズローという人が何を提案したか、ということはご存知でしょう。

これは、人間の欲求を段階付けし、5段階にしてみせた「欲求段階説」ですね。これは実は、私たちに非常に大きな影響を与えています。特に看護師さんの世界で、看護の役割を説明し、自分たちのアイデンティティにする、という報告が、学会でしょっちゅう行われました。

■「欲求段階説」とは?

人間の欲求、基本的な欲求が生理的欲求になって、それが満足されると次に行けるというのが彼の段階説で、基本的欲求を満たしてあげないと人間は次にいけない、より人間的な欲求にいけない、というものです。これは、社会福祉が必要だ、ということの根拠になったんですね。ここを保証をしてあげなければ、人間的な生活なんかできないんだからっていうことです。

これが保証されると次に安全欲求となります。単に食べて出して寝るだけじゃなくて、安全に食べて、安全に出せて、明日も食べる物があって、ちゃんと安心して眠るところがある、ということですね。そこを保証してあげると次は、所属欲求や愛情欲求という、よりちょっと人間的な欲求になって、これも満たされると、自尊欲求ー人から尊敬されたい、とか、プライドを持ちたい、というふうになっていく。そしてそこが実現されると、最後に自己実現欲求に至る、それが人間なんだ、ということを言っています。

■「自己実現」は本当に最終地点か

私はね、これどうかと思うんですよ。看護というのは、生理的欲求と安全欲求を保証しているに過ぎない、ということになるんだけど、なんでそれやっているかというと、それを保証するとその後自己実現していくから、だから意味があるんだって位置付けをしたんです。

それで、これに対して抗議したのが重度心身障害児のお母さんたちです。「うちの子供は、生まれてから死ぬまで、おそらく食べて出して寝るっていうことの繰り返しで、そこから卒業して自己実現なんかしないんだけど、じゃあ私がやってる介護には意味があるのか、この子は生きてる意味がないということになるじゃないか」っていう抗議の声があったんです。

お年寄りもそうなんです。要介護のお年寄りの食事ケアや排泄ケアをやって、このあと自己実現するかというと、違いますよね。小さい頃ピラミッドの下(生理的欲求・安全欲求)にいて、そっから発達して上がっていって、もう一回帰ってきたっていうのが、お年寄りなんですよ。

そうすると、このマズローの考えというのは、私は行きっぱなしの人間観じゃないか、と思うわけです。上へ行くばっかりで帰り道がない、老化という視点がどこにもない、あるいは重度心身障害者っていう視点がどこでもないじゃないか、ということになっていきます。

■日常生活の中に、その人の「尊厳」はある

私に言わせると、ピラミッドの上に上がっていくっていうことと、下に下がっていくということを、「発達と老化」っていう風にとらえたいと思っています。尊厳っていうのは、自己実現するから尊厳があるんじゃないんですね。「今日どう食事するか」の中にその人の自己実現や尊厳があるわけです。どう排泄するか、どうお風呂に入るか、ということの中にその人の日常的な自己実現がある。それを担っているのが我々介護職なわけです。今ここの、小さな自己実現を、三大介護を通してできるのが、我々の仕事なわけです。

良い食事ケアや排泄ケア、入浴ケアっていうのは、知識や技術ももちろん必要なんです。必要なんだけど、それを通して「あ、自分は生きてていいんだ」という小さな自己実現があってこそ。自己実現という大袈裟な言葉でなくとも、自己肯定感を得られるような、そういう介護ができてる人っていうのが、良い介護職だ、という風に考えています。

そういう意味で私は、マズロー的人間観というのは いわば、行きっぱなしの資本の論理で、それが今ちょっと極限まできていて、グローバリズムなんて言われる時代になってて、そういう時代の最後の局面にきている気がします。

でも、介護職の私たちは、もうちょっとそれを脱却した人間観を持つべきではないか。欲求のピラミッドの上に上がるのも、悪いということではないですが、それは自然過程で、どれだけ上に上がった人でも、その後年をとっていくと、もう1回帰っていくんだよっていう視点がないと、その人間観はちょっと虚しいものになっていくのでは、と思っているわけです。

■終わりに

いまだに私は、いろんな刺激を受けながら新しい世界を見ていく、という非常に幸せな介護の世界に入り込んだなあ、と思って日々を過ごしています。私は偶然この世界に入ったのですが、12回の転職で、いろんな仕事をやってきた体験から言うと、介護ほど面白い仕事はないだろう、という風に思っています。特にそれは、資本主義社会が終末期になってきた、というところで明らかになってきていて、芸術家という仕事とともに最後まで残るのは介護という仕事だろう、と思っています。みんなで、ここが踏ん張りどころだと思います。今日はありがとうございました!

■三好さんが紹介した本 本セミナーの中で三好さんが紹介された本のリストです。興味を持たれた方は、ぜひこちらからチェックしてみてください!

「新しい介護」 三好春樹

「図解生理学」 中野昭一

「人間性の心理学」 マズロー

「介護戦隊いろ葉レンジャー参上」 中迎聡子

「手の倫理」 伊藤亜紗

「新宿・歌舞伎町 人はなぜ夜の街を求めるのか」 手塚マキ

「バタイユ入門」 酒井健

「野生の介護」 三好春樹