介護現場ではハラスメントと呼ばれるものが少なからず発生しています。 それは職場の上司や同僚など、働く人の間で行われるものと、利用者や家族などから受けるもの(通称:ケアハラスメント:ケアハラ)と大きく二つに分けられます。

前者の働く人同士の間で行われるものは、他の一般産業でもパワハラ、セクハラ、マタハラ、アルハラなど様々なハラスメントとしてその是正が進められています。介護現場も同様です。

一方で、利用者や家族などから受けるハラスメントは複雑です。医療福祉、介護は対人援助という特殊な産業であり、利用者や家族が何らかの病気や障害、生活の課題を抱えています。見方によっては援助者よりも弱い立場にいる面もあるため、ハラスメントの見極めや対応が働く人同士の間で行われるものより難しいと考えられます。

こうした中で、皆さんの職場ではきちんとした対応が行われているでしょうか。管理者やリーダー、経営者の方々はきちんとした対策を講じたり、事態が起きた時の対処ができているでしょうか。 介護人材不足が叫ばれる一方で、介護サービスを利用する本人や家族が抱える課題は複雑化しており、そうした背景からハラスメントという形で介護従事者にぶつけられることも増えています。

こうした背景から、国でも実態調査や『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』をはじめ、対応ツールを掲載して、現場での対応力を応援しています。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05120.html

介護現場におけるハラスメントの実態や捉え方、具体的な対策について同マニュアルを参考に考えていきましょう。

<介護現場におけるハラスメントとは>

ハラスメントと言っても、その捉え方は感覚的なものではないでしょうか。国でもハラスメントについて確定した定義はないと断っています。こうしたことからも、ハラスメントとそれ以外との線引きが難しいものであることが伺えます。 その中でも、一応国では「介護現場におけるハラスメント」を“介護サービスの利用者や家族等からの以下のような行為の総称”としています。

1)身体的暴力…身体的な力を使って危害を及ぼす行為。 2)精神的暴力…個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為。 3)セクシュアルハラスメント…意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的ないやがらせ行為。

そして、同時に次のようなことは「ハラスメントではありません」と言及しています。

●認知症等の病気または障害の症状として現われた言動(BPSD等) ※BPSD…認知症の行動症状(暴力、暴言、徘徊、拒絶、不潔行為等)・心理症状(抑うつ、不安、幻覚、妄想、睡眠障害等)のこと。 ※もちろん、病気または障害に起因する暴言・暴力であっても、職員の安全に配慮する必要があることには変わりがありません。事前の情報収集等(医師の評価等)を行い、施設・事業所として、ケアマネジャーや医師、行政等と連携する等による適切な体制で組織的に対応することが必要です。 そのため、暴言・暴力を受けた場合には、職員が一人で問題を抱え込まず、上長や施設・事業所へ 適切に報告・共有できるようにすることが大切です。報告・共有の場で対応について検討することはもとより、どのようにケアするかノウハウを施設・事業所内で共有できる機会にもなります。

●利用料金の滞納 (不払いの際の言動がハラスメントに該当することはあり得ますが、 滞納自体は債務不履行の問題として対応する必要があります。)

●苦情の申立て

まずは何がハラスメントの枠組みに該当すると国が示しているのか、そして何は該当しないと言われているのかを確認してみました。 とはいえ、認知症等の病気や障害の症状として現れた言動という部分の線引きは、やはり難しいものです。マニュアルでも下記のようにその難しさに言及しており、個々の事例ごとに正確な事実の把握と事業所全体での話し合いが大切であると触れています。

ハラスメントは、利用者や家族等の置かれている環境やこれまでの生活歴、職員と利用者・家族等との相性や関係性の状況など、様々な要素が絡み合うことがあります。このため、一律の方法では適切に対応できないケースもあります。ハラスメントが発生した場面、対応経過等について、できるだけ正確に事実を捉えた上で、事業所全体でよく議論し、ケースに沿った対策を立てていくことが重要となります。

次回以降、ハラスメントの実態や影響、事業所や職員としての対応など、数回にわたってこのテーマについて考えてみたいと思います。