みなさん、実務者研修をご存知でしょうか。 「介護福祉士の国家試験を受ける前に受けなければいけない研修」と認識されている方が多いと思います。 この認識は間違っていません。ただ、介護業界におけるキャリアアップ、介護業界で頑張り続ける上では、もう少し違う視点からこの研修について考えてみたいものです。 実務者研修とはそもそもどのような位置付けの研修なのか、そのねらいについて3回にわたって書いてみたいと思います。

実務者研修の目的

介護業界では『実務者研修』と呼ぶことが一般的ですが、正式名称は「介護福祉士実務者研修」と言います。介護福祉士になる前に受けなければいけない研修、介護福祉士になるための研修という印象を受けますね。

ヘルパーの生い立ちと歴史⑤資格制度 後編」の記事でも書いたように、国家資格である介護福祉士になるためには、大きく2つのルートがあります。それは、介護福祉士の養成校である、専門学校や大学を卒業して取得する『養成校ルート』と、実務経験を3年積んだ後に国家試験を受けて取得する『実務経験ルート』です。 この『実務経験ルート』は長らく、現場経験と国家試験のみで取得できるように設計されてきた為、介護福祉の専門職として相応しい体系的な学習をする機会がありませんでした。 この間、認知症の方の支援、地域包括ケアシステム、他職種連携など、介護福祉士に求められるニーズは複雑多様化してきました。しかし、それを担うはずの国家資格であるにも関わらず、必要な学習をしていないということに懸念の声は上がっていたのです。

そのような背景のもと、ついに2013年から実務者研修制度がスタートしました。施設、在宅を問わず、幅広い利用者に対する基本的な介護提供能力の修得を目指し、実務経験ルートで国家試験を受ける人には必須の研修として位置付けられるに至ったのです。

まとめてみると、実務者研修の目的は、「実務経験ルートの人たちが、介護福祉の国家資格に相応しい体系的な学習を経た上で、介護福祉士を取得できるようにするため」と言うことができますね。

実務者研修成立までの紆余曲折

さて、ようやく成立した実務者研修ですが、当初は600時間の研修カリキュラムが想定されていました。しかしながら、介護現場は実務経験ルートで介護福祉士を目指す人が大半です。そのため、現場に入りながら、600時間の研修を別途受けに行かなければならないという実務者研修は介護職自身にも、現場の経営陣にとっても簡単には受け入れられるものではありませんでした。 そこで紆余曲折を経て、カリキュラムは450時間以上と大幅に削減され、更には、一部の科目を除いて、基本的には通信学習でも受講可能と言う妥協案に落ち着きました。また、初任者研修や旧訪問介護員○級(ホームヘルパー○級)などを取得している場合、一部科目の読み替えが可能となり、保有資格に応じて受講科目が免除される仕組みもあります。

現在、実務者研修を受講できる学校は全国各地にありますが、実際に学校(教室)へ通うスクーリングはおおよそ5〜8日程度とコンパクトに組まれていることが多いです。 もちろん、残りの数百時間は自宅で学習をすることが想定されているため、受講期間中は一定の負荷はかかります。しかし、働きながら実務者研修のカリキュラムを修めることは比較的容易になり、実務経験ルートの人が、晴れて介護福祉士になる前に、体系的な学習機会を得ることができるようになりました。

今回の記事はここまでです。次回は実務者研修に込められているねらいについて考えてみたいと思います。