ソーシャルワークという言葉があります。これは介護業界でも時々耳にする言葉なのですが、少し複雑で多様な意味合いを含むものなので何となく聞いたことはあるけれど、よくわからないものとして流れてしまっています。

今日は、そんなソーシャルワークのイメージを少し掴んで頂けるようなお話をしたいと思います。

世界には多様な背景を持つたくさんの人が暮らしています。国、宗教、思想、性別、人種、学歴、家柄、世帯所得、世帯構成などなど。

そうした多様な人々が幸せに暮らすためには何が必要でしょうか。逆に幸せに暮らすことを阻んでいるものはなんでしょうか。

人が幸せに暮らすためには個人の努力だけでなく、支えてくれる周りの人の存在や意識、地域の仕組み、社会保障や、法制度などが必要です。そして、理不尽な差別や偏見を排除したり、努力が報われないような構造が取り除かれなくてはなりません。つまり、人が幸せに暮らすことを促進するプラス面を整え、幸せを阻害するマイナス面を取り除く両方が必要なのです。

プラス面を整えて、マイナス面を取り除くというのは、個人レベルでも、地域社会レベルでも、国レベルでもそれぞれ必要になってきます。

例えば、親の介護に悩んでいる人に、YouTubeの介護技術動画を教えてあげて、介護の知識を持てるようにすることは大事です。他には、同じ介護で悩んでいる家族同士の支え合いの場を紹介し、他の介護家族に悩みを打ち明けられるということも大事です。市役所へ相談して介護保険サービスを使えるようになるという仕組みが日本にあるということも大事です。これらは幸せに暮らすことを促進するプラス面を整えるアプローチです。

逆に、「介護は家族でやるもので、介護サービスを使うなんて恥ずかしいことだ」というかつての日本で主流だった考えは、介護家族に介護負担を強いる社会的偏見でした。こうした社会の偏見を変えていくことは、幸せを阻害するマイナス面を取り除くアプローチと言えます。

ソーシャルワークとは、こうした人が幸せに暮らすことを促進するプラス面を整え、幸せに暮らすことを阻害するマイナス面を取り除くアプローチを、個人、地域社会、国レベルごとに行う支援や活動、それらに関する学問、それらを行う専門職をトータルに示す言葉と言えます。

日本におけるソーシャルワークを担っている機関としてみなさんが聞いたことがある所を挙げるならば「児童相談所」や「社会福祉協議会」などがあります。しかし、他にも、ひきこもりの方の支援機関や、DV被害者の支援機関、LGBTの方々の支援機関など多岐に渡ります。そこでは、相談に来た方個々人の支援を行うことはもちろん、そうした人と地域の支援者を繋いだり、相談者同士のネットワークを築いたり、必要があれば、そうした人たちの権利を保障するために行政や国に法の成立を訴えるなど、多様なアプローチをしています。

冒頭述べたように、世界にはたくさんの背景が異なる人が暮らしており、それぞれの想いや主義主張、偏見や差別意識は千差万別です。そうした人たちが皆幸せに暮らせるために、特に社会的に弱い立場にある人たちの権利をまずは守るために、プラス面を整え、マイナス面を取り除くといった様々なアプローチをする。そして、個々人の幸せを広げていくことがソーシャルワークの目指すものなのです。

なんとなくソーシャルワークのイメージはつかめたでしょうか。

今回はここまで。また次回もソーシャルワークって何の続きをお伝えいたします。

※本稿は、金山峰之さんからの寄稿記事です。

※ 金山峰之さんのプロフィール 介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員。法政大学大学院政策創造研究科修士課程修了。 在宅介護を中心に15年以上現場に従事。現在フリーの介護福祉士として、高齢、障害者介護現場の傍ら、介護人材の育成、講演、研究、コンサルティング等に従事。