前回の記事までで、訪問介護従事者(以下ヘルパー)が巻き込まれた、介護保険制度始まってから、業界に起きた最初の大事件を中心にそのあゆみを見ていきました。介護業界は3Kというイメージが定着する以前には、バラ色と言われる時代があったのですね。

さて、今回の記事では現在に続くヘルパーのあゆみの中で「処遇改善と事業所間の競争」について見ていきたいと思います。これらはヘルパーだけでなく、介護職全般に言える業界の環境変化でもあります。刻一刻と変わっている現在の介護業界を見ていきたいと思います。

<介護従事者の処遇改善>

コムスンショックが起きた後、2008年には『介護従事者等の人材確保のための介護従事者等の処遇改善に関する法律』によって、他産業と比べて処遇が厳しく、離職率も高い介護職の処遇改善に対する検討が行われました。この後も、介護職員全般の処遇改善に関する加算が創設されたり、介護報酬をプラスにする改定によって、ヘルパーを含めた介護職の処遇改善が試みられています。

また、高齢の親の介護をきっかけに、企業に勤める従業員等が退職をしてしまい、経済的な損失が大きな社会問題となっている介護離職について、国は『介護離職ゼロ』を政策として掲げるようになりました。これに伴い、介護職員の処遇改善や働き方の改善が少しずつ進んでいます。直近では、2019年10月の消費税の引き上げに伴い、特定処遇改善加算が創設されています。介護離職を防ぐために必要な介護職を増やし、定着させるための処遇改善という構図です。

ただ、介護現場に勤めている人の中には、処遇改善の実感が湧かないという方も多いと思います。それは介護業界にどんどん新規入職者が増えていることなど様々な背景があります。国も介護に従事する人全員の給料を上げるというよりも、介護福祉士を取得する、長く勤める、リーダーや管理職になるなど、一定のステップアップを目指す人に対してキャリアに応じた処遇改善を描いていると思われます。

<介護事業所・企業間の競争>

個々の介護職やヘルパーのキャリアアップの道が少しずつ開かれている反面、ヘルパーたちを雇用する介護事業所、介護企業にとっては熾烈な競争がすでに始まっています。利用者というお客さんを確保するという競争はもちろんですが、それ以上に激しくなっているのは人材確保の競争です。体力がある企業や、特徴がある企業など、介護人材を多く留める体制づくりに注力しているところとそうでないところで差が開いてきているのです。

東京商工リサーチによると、2020年1-9月の「老人福祉・介護事業」の倒産は94件で、過去最多を更新しました。そのうち半数近くが訪問介護事業で、人手不足と人件費の上昇などが負担となったようです。そして小・零細事業者が大半を占めているということです。

つまり、ヘルパーらの給料が上がるということは、企業にとっては人件費が上昇するということですし、特に次世代を担う若手のヘルパーはより良い労働条件のところへ移ってしまいます。加えて、介護保険制度開始前後に量産されたベテランヘルパーたちは年齢的にも引退を控えており、そうした体力が無く、人材確保が厳しい事業所・企業にとっては今後も厳しい時代が続くでしょう。そして介護事業所、企業の淘汰と業界再編が起こると思われます。

さて、これらは一般産業で見ればある意味当たり前のこととも言えます。例えば一昔前のサラリーマンが「英語」や「パソコンスキル」を磨くために自己投資をしていたように、ヘルパーも、自然と給料が上がることをただじっと待つのではなく、自分の専門性やマネジメント力を向上させることとで自分の市場価値を高めていかなくてはなりません。それが結果として自ら処遇を上げていくということになることでしょう。

そして働く私たちの側が、安定した労働環境を提供し、質の高い介護を目指す企業を選んでいく時代に入ってきていると言えます。

しかし一方で、介護は福祉に位置付けられている産業ですから、採算が合わなくても支援を必要とする人に介護福祉サービスを提供しなければなりません。資本力がある大きな介護企業が全て良いと言い切れるものではありません。たとえ規模は小さくても、本当に介護を必要とする人になんとか支援を行おうと奮闘している質の高い事業所はあるはずです。

私たちは自分の専門性とやりがい、介護観などを自分で確認しながら、自分に適した現場を探して選んでいくことが大事な時代ということですね。

今回の記事はここまでです。