人は老いると様々な喪失体験をします。この喪失体験とは一体何を意味しているのでしょうか?

身体的な能力や機能。できていた、担っていた役割、自分が存在すること自体の役割。人々との関係性。所属する居場所・・・

これらを喪失する体験から人々は身体、心理、社会、スピリチュアルな痛みを抱え、主体的な日常生活を送ることに支障が出て来るわけです。

それは実際問題として主体的な日常生活を送る力(能力やスキル等の身体的力)を失っていることもありますが、実は自尊心を低下させていることが1番の原因だと私は考えるのです。

そうです。喪失体験は自尊心の低下を招くのです。

自尊心の低下とは、人の生きる原動力が低下している状態のことです。

自尊心=つまり「自分は価値ある存在だ、存在している意味がある、生きていていいんだ」ということが“思えない”=つまり生きる原動力を低下させている状態なのです。

介護の仕事はこれらの喪失体験によって失ったものの再生、回復、維持、向上によって自尊心を高めるものだと言えることができるでしょう。

さて、私たち現役世代で言うと、自尊心が高まるということは、新たな自分への挑戦や出会いによって『成長』することだと言えます。

では余生が少ない老いた人が自尊心を高めるとはどういうことでしょうか?

それは現役世代と同じく『成長』を意味しています。

もっと言えば『成熟』です。

人は『成熟』することによって初めて自分が生まれたこと、存在し、死ぬことの本質、“人間の本質”を知ることができるのです。

それまで獲得してきたものを喪失し、そこから新たに自尊心を高めていく過程で、人は自分が生きること、死ぬこと、何によって支えられ、存在するのか?という“人間の本質”に近づくことができます。

その人間の本質に近づけるかどうか?

介護とはそういった、人が『人間の本質』にたどり着くための支援なのです。

考えてみると私たち現役世代も同じように日々何らかの喪失体験を積み重ねています。

その中で皆、自力もしくは他者の力を借りながら主体的日常生活に戻っていくのです。

つまり、現役世代にはまだ力があるのです。

しかし、主体的日常生活を送ることができない方々にとっては、そうした主体的日常生活に少しでも近づくこと、近付くために支えてくれる人の存在を知ることが、『成熟』・『人間の本質』につながる一歩なのです。


なぜこんなよくわからないことを書いていると思いますか?つまらないことかもしれません。

しかし、『介護』というものを考えていくと、人はそもそも何故人を支援しなければならないのか?人はなぜケアするのか?単なる慈善か?という問いにぶつかってきます。

利用者の中にはひどい生活や惨めな人生の結末にいらっしゃる方も大勢います。自業自得で同情の余地もない人もいます。

しかし、そのような人たちにすらその人が「こんな腐った人生でも、最後に人間として生きてきたことを実感できた、自分の人生は良いものだった」と思えるようにすることを追求するべきなのです。

なぜそこまでする必要があるか?

それは私たちがプロの専門職であるからでもあります。プロだからそこまですることが必要なのです。ただの身の回りのお世話ではない専門職としての追及です。

もう一つの理由。現在介護業界で主流になっている『介護は“生活”を支援すること』という考え方。この『生活』も突き詰めていくと人間の本質を感じることを必要としてくるのです。生活もただ整えればよいのではない、その人らしさとかそういうものを考えながら生活を支援するということは、その人の歩んできた人生、人間というところから支えなければ意味がなく、人間の本質に近付くための生活支援と考えることにぶち当たってくると思うのです。

私たち介護業界の現状は、今目の前にいる人々ではなく、現場の課題や問題、制度やシステムに目を奪われ、仕事ではなくて業務を解決することに集中しすぎているような気がするのです。

改めて、自分たちの介護という仕事は何をすることなのか?そのことをとことん追求することが必要なのではないでしょうか?

自分たちが目指すべき介護の仕事の理想、目標、方向性を新たにしてこそ、現場のスキルや課題解決の方向性が見えてくると思います。

介護は人が人間の本質に近づくための支援であり、そのために介助技術、コミュニケーション能力、病気への知識、介護保険制度、社会保障等があるのです

あなたも、介護とは何かを一緒に考えませんか?私ももっと追及していきたいと思います! 小難しかったですし、人間の本質などサラッと書いたことも、今後もっと詳しく書きたいと思います。

堅苦しい記事を最後まで読んでいただきありがとうございました!

※本稿は、金山峰之さんからの寄稿記事です。2009年7月18日に、ご自身のブログ「介護の専門性新提案」において、掲載した内容を一部編集の上、掲載しています。