2021年5月22日に行われた「理想のケアとその実践を語る」あおいけあ×駒場苑コラボ質問会の内容をダイジェスト版で紹介します!

【登壇者】 加藤忠明(あおいけあ代表) 坂野悠己(特別養護老人ホーム駒場苑施設長)

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4. 自分の考えを周りに広げるには? (録画:46:51-1:07:25)

編集部 コメントでもお二方の今の考え方に共感するという声をいただいています。おそらく皆さま悩まれてる「理想の部分と周りが対立した時にどうするんですか」みたいな質問ですね。「そういった考え方をどう浸透させてますか?」というところで、まずこちらは坂野さんに聞けたらと思います。今も駒場苑で、というのもありますが、駒場苑に来た当初がどんな感じで、それをどう周りに働きかけながら今の状態にしてきたのか、そして今どのように職員の方とコミュニケーションを取っているのか、というところを伺えたらと思います。

坂野(駒場苑) 駒場苑は、私が行った時は、呼ばれるくらいなんでやっぱり良いケアはされてなくて。そもそもまず私が駒場苑に来るっていうことでもう揉めてて、「横浜でなんか施設改革とかやってた生意気なやつが駒場苑に来て、なんかまた『改革だ』とか言ってやろうとしてるぞ」みたいな感じでお触れが回ってたみたいです。職員さんに挨拶しても無視されたりとか、働き始めて三日目の朝に、職場の自分のレターケースに紙が一枚入ってて、誘拐犯がよくやるような新聞の切り抜きで「辞めろ」って貼られたのが入ってたりとか。入職して3日でそういう洗礼を浴びるって、もう本当にアウェイですよね。そんな形で入っていって。

最初にしたことは、とにかく仲間を見つけることですね。やっぱり一人じゃ本当何にもできないんですよ。で、どんな施設であっても、絶対想いがある人ってやっぱり何人かいるんですよね。主流がなんかスピード重視で、こっちの都合でやっちゃえみたいな人たちが幅きかせてるから、大人しくしてるだけで、利用者さんにもっと個別で関わりたい人ってゼロなわけないんですよね。だからそういう人たちをまず探して、一人でも多く仲間に率いれてやるっていう形で進めて行きましたね。

私が駒場苑に行った時は、条件として、ある程度権限がないと組織を動かせないので、一介護職っていう形ではなくて、一応主任っていう形で、その特養のトップみたいなかたちで行かせてもらったんです。なのでその権限をちゃんと活用して、仲間を見つけて、その仲間を中心にリーダーにしていくみたいなかたちで、人事で組み替えたとこは正直あるかなと思いますね。やっぱり、組織バランスからちゃんと人事で作らないと、正直私一人では難しかったと思います。

そういう人事体制を作った上で、その当時はプロジェクトチーム的な食事委員会、排泄委員会、入浴委員会等が、ちょっと手がつけられない状態でして。例えば排泄委員会でいえば、各フロアで今オムツになっている人の中で、「いや今この人オムツじゃなくて良いんじゃないの」っていう人って絶対いるんですよね。そういう人から、まずは食後だけでもいいから、トイレにお連れしようよ、みたいなことをやり始めたりとか。そういうかたちで、委員会活動で実践をしていって、それに対して利用者さんがどうだったのか、どういう変化があったのか、見ていきました。

もちろん利用者にとって不利益なことが起こるんだったら、それは辞める必要があると思うんですけど、大体そういう施設って、オムツじゃなくていい人がオムツになってたり、機械のお風呂じゃなくてもいい人を機械のお風呂に入れてたりするものなので、そういう人たちが元の生活習慣通りになった時に、良いことの方が絶対起きるんですよね。オムツの人がトイレに座ったら、「あ、うんちが出た」とか。そうすることによって、トイレでうんちが出た方が、実はこっちがオムツに出たものを変えるっていう手間の方が大変だったりして。そのあたりを職員さんもやっぱり身をもって感じていって、最初ちょっとしかいなかった仲間もちょっとずつ増えていってっていうかたちでしたね。

ただやっぱり最後まで反対する人は反対してました。だから、全員が「その関わり方最高だよね」っていう状態はあんまりないって思っていて。「なんだよ」とか、「いやスピード重視でやらないとダメでしょ」っていう人も何割かは絶対いるんですよね。みんなで「良いケアしよう」みたいな感じにしてると、そういう人たちが浮いていって、確かに辞めたりもするんですけど、辞めるとその人たちの割合が少なくなるかと思いきや、その人のところに降りていくんですよ、誰かが。で、その人たちがまたちょっと悪さをしてっちゃう、みたいなのが、組織上絶対ゼロにはできないっていう。

なので、「浸透」っていう時に、全員が右向け右で、「7ゼロ最高」なんて組織は、私逆に洗脳なんじゃないかなって思ってて。それは逆に危ない組織。むしろちょっと逆の方向を向いてる人もいてもいい。だけどやっぱり、事業所として目指してる方向で、関わりを実践できる仕組みが、ちゃんとあればいいのかなってに思ってるんですよね。だから今は、そういう人たちを「排除してやる」とかはなくて、「そういう人たちもいるんだから、それも踏まえてチームとしてやれることを考えていく」っていうかたちでやってたりしますね。

一つ仕組みを言うとしたら、うちでも食事の介助をしなきゃいけない人たちがやっぱり何人かいて。そういう人たちへのスプーンは、小さいスプーンを使うようにはしてたりするんですよね。昔はカレーのスプーンでやってて、というのも要はカレーのスプーンのほうがたくさんよそえるから、早く食事介助が終わる、っていう発想で、結構これ他の施設でもあるんじゃないかなって思うんですけど。でもそれをしちゃうと結局誤嚥が起きたり、最悪窒息っていう事故も起きたりして、もう食事って言えなくなるような感じになるので、介助になるのは仕方ないけれども、介助をしたとしても小さいスプーンでやろうと。

そのためには仕組みを変えていかなきゃいけなくて。そうするための時間をどう作るのか、というところですね。ここで注目したのが、特養でよくある10時のお茶と、15時のおやつっていうので。特養は、必ず10時に全員食堂に揃い、お茶を一杯飲まなくてはいけないっていう暗黙の伝統がこう受け継がれてるんですよね。あの伝統ってすごい弊害があるんですよ。あれがあることで、職員さんがみんなそこを午前中のゴールにしちゃうんですよ。そのためにみんな時間を逆算して動くようになっちゃう。

だから、10時に全員起きててお茶を飲むためには、9時半には全員の排泄を終わらせなきゃいけない。じゃあ9時半に排泄が終わるには、8時半には食事を全員終わらないといけない。8時半に食事を全部食べ終わるには、うち7時45分に朝ごはん上がってくるんですけど、7時45分に食事が出る時に全員起きてて、お茶も一杯飲ませておかないといけない。だから夜勤の仕事は、早番が来るまでに全員起こして、お茶を一杯飲ませてる状態にしておかないといい夜勤じゃないっていう。そういう状態が結構特養ってあると思うんですよね。

そうすると、7時45分に全員起きててお茶を一杯飲ませるには、一番はじめに起こす人は5時です。そうするとおじいちゃんおばあちゃんは5時に起こされて2時間くらい座らされて、朝食の時間になるともうこんな(首をガクッと下げて)感じになってるんですよね。それを職員さんは「傾眠が強いよね」って言って。「誰々さん食事しようよ」とかって耳元で叫びながら食介が口に入れたりするんですよ。ましてや大のスプーンで。これ誰が幸せなのかなって。職員も幸せじゃないし、利用者さんも幸せじゃないし。この10時のお茶があることによって介護職はその動きをせざるを得ない。縛りができちゃうんですね。

そのためには、その特養の10時のお茶とか15時のおやつとか、食事の合間にある、みんなで一斉にやる日課みたいなのを無くさないと、それを崩せないっていうことに気づいて、それを全部無くして。その分食事をゆったりして。ゆったりすれば7時45分に全員起きてお茶一杯飲まなくてもいいから、ある意味寝てるんだったら無理に起こさないで、起きてる人だけ起きて朝ごはん食べ始めればいいし。そのあとに起きた人からまた声をかけて起きたりすればいい。そうすると少しズレたりするわけですよね。それも10時のお茶が無ければ、ズレたって別にいいわけですよね。午前中の自由な時間がいっぱいあるから。

だからそういう仕組みみたいなのを組み替えていかないと、なかなか難しかったかなと。そうしていくと、小スプーンで食事介助しても、「ゆっくりだから、時間もたっぷりあるから、小スプーンでも大丈夫だよね」っていう納得感がそこでできて。それが浸透していく、というかたちなんですよね。

小スプーンにしてるのは、結局効率重視な職員さんって絶滅しないんで。分かってる職員さんは、どのスプーンでやろうが、その方にとって適正な食事の一口量で食事介助してくれるんですけど、スピード重視の職員さんは、どのスプーンでやろうと大盛りでやるんですよ。そう考えたときに、こっちも大盛りにする人がいるだろうって仮定して、大盛りにしてもたくさんよそえないスプーンはやっぱり小スプーンだなと。だから、どの職員さんがやってもそんなに一口量は変わらないかたちで、安全に口にちゃんと食事が入るようになる、というのをトータルでやっていく。なので意識は浸透しなくても、行動として同じような行動を取れるようにすることが、私にとっては「浸透」かなっていう考えではいますね。

編集部 ありがとうございます。加藤さんにもぜひ同じ質問をして見たいと思います。

加藤(あおいけあ) スタッフへのビジョンっていうのが無いんだと思います。たぶん皆さんが思っているより、はるかに僕ゆるいと思うんですよね。ファジーというか。自分の通ってる職場がギスギスしてるの嫌なんですよ。スタッフ同士が喧嘩してるとか、派閥ができてるとか、社長が行くと睨まれるとか。そういう場所が嫌なので。最初からうちの会社の目的は「よりよい人間関係の構築」って謳ってるんですね。

例えば今のスプーン論争でもなんでもいいんですけど、例えば坂野さんがめちゃくちゃ正論をスピード重視のスタッフにぶつけたところで、坂野さんとそのスタッフの関係性が悪かったら、たぶんどうあがいても、どんなに正論をぶつけても、どんなに言葉を尽くしても、おそらく対立しますよね。なので、うちはその内容とかはもうどうでもいいから、それまでの関係性のほうがよほど大事だろうと思ってるんですよ。なので「スタッフさんたちの関係性が1番大事ね」って話をしています。

特に常勤で入ってくる職員さんたちには、じいちゃんばあちゃんにとって常勤とか非常勤とかは、別に名札つけてるわけでもないし、「関係あると思う?」って聞くんですよね。たぶんじいちゃんばあちゃんにしてみれば、常勤だろうが非常勤だろうが関係ないし、ただの一人ですよね。もしかしたらパートさんのほうが好きかもしれないですよね。なので常勤さんには「パートさんたちが働きやすい環境を作ってください」っていうふうに採用の時に必ず言うんです。僕もそうです。僕とスタッフさんたちもそうだし、僕とじいちゃんばあちゃんたちもそうだし、スタッフさんたちとばあちゃんたち同士の関係もそうだし、スタッフさん同士もだし。その「関係性が良いことがうちは1番の目的だ」って言ってるんです。変な話かもしれないけど。ケアの話よりはるかにそっちのほうが大事だと思ってるんです。

だから例えば僕は社長ですけど、社長の役割をしている加藤であって、別に加藤とパートさんどっちが偉いかって言ったら、別に人間的にはどっちが偉いとか関係ないじゃないですか。僕が別に偉いわけじゃないので。僕が普通に現場に行くと「ジャマだ!社長ジャマ!」って普通に退けられるんですね。別にそれで「全然良い」って言ってるんです。別に社長室で昼寝してても構わないし。あくまでも関係性がフラットであることが前提でないと、何を話しても相手は受け入れてくれないっていう考え方で、うちの場合はやってます。

採用の時も、会社のところで絶対に譲れるか譲れないかっていう質問を一個だけ織り交ぜてるんです。それに対してちゃんと答えた職員さんに関しては、僕の面接は通ってるんですが、その上で必ず現場で体験をしてもらいます。2日間。2日間体験して、採用するかしないかはその時にいた現場の職員さんたちに決めてもらってます。「あの人と働きたい?」って。職員さんたちが「あの人と一緒に働きたいです」と言ったら採用します。でも「あの人ちょっとこうだったんだよね」っていう話が出たら「じゃあやめよう」って。どんなに大変なときでも「やめよう」って言います。職員さんたちもわかってますよね。自分たちと全然違う方向を目指す人が入ってきて、しっちゃかめっちゃかになって、結果「やめます」って言って、場がまたブワーって大変になるの。そういう経験いくらでもしてるんですけど。なので、うちは現場の仲間をちゃんと採用するっていう感覚で、僕の面接はダミーみたいなもんで、採用するかどうかは職員さんたちに決めてもらうっていうふうにしてます。

そうすると、採用する職員さんたちも、その人のこと「ちゃんと面倒見なきゃ」って「教えなきゃ」って、仲間を迎える意識でやってくれるし、その人が採用されなかったとしても、人数が少なくても、なんとか頑張って乗り切ろうっていうモチベーションが現場にできるので。うちは大きな会社じゃないから、余計に雇用しとくとかできないんですね。なのでそれも含めて、ちゃんとその関係性を保てる仲間をできるだけ採用したいと思っていて。それができるように努力をしてます。

編集部 スタッフの関係性を大事にしているという前提の上で、採用も「スタッフが良いと思うか?」で決めていくことで、結果として考えに共感してる人が増えていくんだな、というふうに理解をいたしました。坂野さんにもぜひ、駒場苑の採用の仕方を教えていただけたらと思います。

坂野(駒場苑) そうですね、似てるなとは思いましたね。うちも体験を基本的にはしていただくので。特に、特養で経験がある方なんかは、うちのやり方って結構違うと思うので、やってみたら「えっ?」ってなるのがお互いにとって嫌だなっていうのがあって。ある程度やっぱり現場を見てもらって、どんなふうに職員さんが仕事してるかとか、どういうやり方でやっているのかっていうのを体験した上で決めてほしいし、逆にこっちもついていた職員さんに「どうだった?」っていうのを聞いて総合的に判断するっていう感じかなと思いますね。

でも面接でわかるところってあんまり全部はわからないじゃないですか。やっぱり1ヶ月くらい結局は働いてみないとわかんなかったり、最初はあんまり良いイメージなかったけど、入ったら意外とうまくいったケースもあるし。結構期待値良くて現場も「この人いいですね」とか私も面接して「いいな」と思った人が、割とコケちゃったりすることもあったりして。正直その辺はすごく難しいなっていうのは痛感してるんですけど。ただ、できるだけ複数の目で見て、総合的に判断するのは同じかなと思いました。


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