さて、前回の記事では、業界団体には職能団体や経営者団体があること、そして介護業界では経営者団体がとても多く存在している反面、職能団体は少ないことを見てきました。 今回の記事では、代表的な団体の取り組みなどを見ていきたいと思います。

業界団体の活動

まず、経営者団体の中でも、歴史があり、様々な取り組みをされている有力な団体である「公益社団法人 全国老人福祉施設協議会(老施協)」を見てみましょう。

主な目的を見ると「本会は、老人福祉及び介護に関する正しい知識の普及並びに理解の促進を図るとともに、サービスの質の向上確保に係る調査研究を行い、もって老人福祉及び介護事業の健全な発展と国民の福祉の増進に寄与することを目的とする。」とあります。 主な事業としては、「高齢者の福祉の増進に関する、調査研究、研修等の実施、普及啓発活動、相談支援」他には出版事業などをされているようです。

一般的に特養の団体と思われがちですが、会員の施設種別を見ると、他にも養護老人ホームやケアハウス、デイサービスなど様々です。会員の検索ページでは1万件以上の施設が所属していることがわかります。 沿革を見ると古いものは大正時代の出来事が記されています。歴史のある団体ですから、介護保険制度より前の時代、昭和の頃から老人福祉法に関連する施設が所属して、上記目的や事業に取り組まれてきたようです。 施設系にお勤めの方の中には「老施協の会議があったよ」「老施協の集まりがあったよ」という会話を職場内で耳にしたことがある方もいらっしゃることでしょう。特に現場の方々にとっては老施協主催の研修などが身近かもしれませんね。

次に職能団体の代表として「日本介護福祉士」を見てみましょう。 目的をみてみると「介護福祉士の職業倫理の向上、介護に関する専門的教育及び研究を通して、その専門性を高め、介護福祉士の資質の向上と介護に関する知識、技術の普及を図り、国民の福祉の増進に寄与する。」とあります。 主な事業内容としては「介護福祉士の職業倫理や専門的知識技術の向上、調査研究、教育機関や他団体との連携協力、普及啓発、相互福祉に関する事業」などがあります。最近では外国人介護人材の受け入れに関する事業も担っているようです。 設立は平成6年とのことで、老施協と比べるとまだまだ歴史は浅い団体です。そもそも、介護福祉士の有資格者が任意で入会する会なので、介護福祉士資格ができた1987年より後になるのは当然のことですね。

経営者団体が施設や法人ごとに入会するのに対して、職能団体はあくまでもその職種に関連する個人が入会するものとなります。日介の令和元年度事業報告では、正会員は42、341名となっています。前期比が軒並み減となっていることは気になりますね。介護福祉士資格の保有者は増えているのに、日介の入会者は減っているということになります。

政策提言について

ちなみに経営者団体も職能団体も、それぞれの会員の利になるように、国などに対して意見書、要望書を提出したり、国の会議に出席して意見を求められるなど、政策への関わりを行なっています。 介護保険制度は3年に一度の改正がなされますので、最近のニュースではこうした各団体が国に対して意見書を提出するなどの話題が見られますね。 また、新型コロナウィルスに対して、現場に対しての支援の要請をしていたことを覚えている方も多いかもしれません。

ところで、厚生労働省のホームページには、平成30年9月末現在、1,623,451人の介護福祉士が登録をしているとあります。単純計算で、介護福祉士登録者のうち、2.6%しか入会していないことになります。 なかなか力のある団体とは言いがたいかもしれませんね。団体の数でも、入会率でも経営者団体と比べて職能団体の方が力は弱く、つまりは個人である現場介護職たちの力が弱いため声が反映されにくいと言えるかもしれませんね。 経営者団体が間接的に介護現場の声を発信している、というのが介護業界の現場なのかもしれません。

ところで、例えば医療業界ではどうでしょうか。日本医師会という職能団体は誰もが知っている力のある団体ですね。そして当然医療業界にも経営者団体はあります。お隣の業界では、経営者団体や職能団体はどういう状況なのでしょうか。介護業界と比べて何が違うのでしょうか。こうしたことを調べてみるのも面白いかもしれませんね。

一現場の介護職にとっては、業界団体というものは遠い存在かもしれません。しかし、こうした団体の力が私たちの日々の現場の枠組みや制度に対して大きな影響を及ぼしています。 医療介護福祉などは制度の中で設計されており、政策や法律との関連も強い業界です。そうしたことにアプローチする業界団体について、関心を寄せてみてるのも、介護職としてのキャリアを考える上で大事なことかもしれませんね。 ご興味が少しでも沸いたら、それぞれの団体のホームページを覗いてみてはいかがでしょうか。