私はこれまで、専門的知識・技術に加え、個々の介護職が有する“人間性”を活かし、利用者と生身のやりとりをする中から良い介護が生まれると書いてきた。 これは介護現場におられる方ならば暗黙のうちに感じていることであろう。それは、相性や人生経験、年齢などに代表されるその介護職の持つ極めて属人的なものだ。

例えばどんなアプローチをされても無気力だった利用者が、配偶者を亡くした痛みを抱える中年スタッフと共感し合うことをきっかけに意欲がわいてきた。 例えば認知症の周辺症状が激しい方が、おっちょこちょいの若い介護職を前にすると、スイッチが切り替わったようにしっかりと家事手伝いをしてくれた。

全てにおいて卓越したスキルを持ちえているから良い介護をできるというわけではなく、こうした生身のやり取りの中から生まれる人間臭い弱さや関係性、個性などの不確定要素(人間性スキルと仮称)が良い介護を生み出すことは往々にして見られる。

ある者は

「こうした人間性スキルは専門性とは言い難い。業務独占にもなりえない。個性による仕事が命を預かる仕事では困る」

と言い、またある者は

「こうした人間同士のやりとりから本当の介護が生まれる。そもそも科学的に証明したり専門的にする必要もない」

と言う。

あなたはどちらか?

現場で私は後者のあり方を経験し、それを半分確信している。しかし、前者の考えにも賛同できるし、それ故に介護職は低地位や低待遇であり、質の向上が望めないとも考えている。

多くの現場経験者の方は、後者の効果を暗黙のうちにわかってはいるものの、その言語表現の困難さや他の職種に見られる専門性に対するイメージから、介護の持つこの特異な人間性スキルをある種の専門性と言いたいが、うまく言えないというのが正直なところではないだろうか。 ちなみに私がそうである。何とか、この暗黙知を言葉にしようと苦心している。

さて、この人間性スキル。良い介護を生みだすのに有用だとわかっていながら、それがうまく証明できない。 これを科学的、数量的に検証することが難しいならば、仮にこれを認めて、これを“使いこなすこと”によって得られる効果から人間性スキルの有用性にアプローチすることはできないだろうか。つまり属人的である人間性スキル+専門知識・技術を第一の専門性とするならば、これを“コーディネートすること”を第二の専門性とするのだ。

私の職場のデイサービスはその日にやるレクレーションなどの活動が決まっていない。しかし、まったく自由に利用者の希望通り好きにしていただいている、というわけでもない。 私たちは一人のスタッフが数名の利用者を1対1~数名の比率で対応する『担当制』を採用しているのだ。

これは単に、一人のスタッフが数名の利用者に対してグループワークやレクレーションをやるというものではなく、それぞれの個性や意欲や主体性を引き出し、他者からの承認や関係性を用いながら、利用者のニーズを満たすのに必要な活動を展開する方法である。

朝の送迎時から利用者一人一人の様子、状態、家族情報、近況、本人の希望、仲間との関係性、天気など様々な情報を収集し、それを個々人のスタッフの能力、個性等とマッチングさせ、ニーズを満たしやすくなるようコーディネートするのだ。 担当に割り振っても、利用者のデマンドや状況に応じて臨機応変に対応していかなければならないし、ミスマッチも起こる。失敗と成功の繰り返しであり、その情報を改めて次回のコーディネートに反映していく。 この方法では利用者への日々のアセスメント、情報の共有、スタッフの人間性スキルや専門知識・技術を総合的に考え、現場に反映する力が求められる。

結果は、より利用者のニーズを満たす可能性がある活動を展開できるし、スタッフの人間性スキルを存分に発揮させられるので、良いものだ。と思う。一応の自負はあるので、「本当かよ!?」と思う方は是非見学にいらしてほしい。

専門知識・技術だけではない、人間性スキルを用いた介護は、そこに集う人々同士が様々な化学反応をおこす。馴染みの言葉で言うと、人と人の触れ合い、いとなみ、自然な相互のやり取りといったところか。人は異なる者同士が出会うことから様々な影響を与え合う機会が生まれる。 それをある程度予測しながらコーディネートする。人間性スキルをコーディネートという手法で意図的に扱うことで、より良い結果を生み出そうとアプローチすることができる。 コーディネートはそこにかかるアセスメント等の情報を根拠として示せるため、漠然とした人間性スキルの効用を述べるよりも、証明しやすいはずだ。

つまり、人間性スキルはコーディネートという第二の専門性によってより専門性になり得るのだ。

これは単なるマネジメントやチームアプローチではなく、現在進行形で起きている介護場面で、人間性スキルという極めて曖昧なものを十二分に活かすために必要な専門的手法だと考える。

すべての介護場面、すべての事業所で、人間性スキルをコーディネートする力を介護の一つの専門性とすることは難しいことかもしれない。訪問介護やシフト制で動いている24時間の施設等では人間性スキルを発揮する以前の課題(人手不足、財政難等)がある。しかし、心あるリーダーや管理者、経営者はこの専門性を用いて実際に現場を運営されている。

『~だからできない』とよく聞くが、そうではなく『どうしたらできるか?』を問い続けなくてはならない。 仮に、人手不足、財政難等が解決されたとしても、そこで『では介護の専門性は?存在価値は?』と改めて問われることは必至である。どちらが先ではなく、並行して考えていかなければならない。少なくとも、現場では目の前の利用者のためにできる、最大の支援を工夫して考えなくてはならない。

一定の専門的知識・技術は大前提だが、人間性スキルに対して暗黙的にその有用性を感じられるならば、コーディネートの専門性によってそれを使いこなす方法を事業所、現場ごとに探っていけたらよいのではないだろうか。