介護現場で「コミュニケーションが苦手」という方がいます。スタッフでも実習生でも。 これはよくよく確認すると「利用者とうまく会話ができない」と彼らは感じて表現していることが多いように感じます。

ベテラン介護職も、新人さんや実習生に対して「利用者さんとコミュニケーションをとってください」と簡単に言いますが、その意味や目的をしっかり伝えないと単なる苦行ですね。

ということで、介護におけるコミュニケーションをいかに新人さんに伝え、身につけていただくかについて考えてみたいと思います。

私は介護におけるコミュニケーションの目標は 『適切な援助関係をつくり、維持する』ことにあると思います。

では『適切な援助関係』ってどんな関係だ?という最終ゴールに当たる部分を具体的にあげてみます。

この人は私の味方だ この人は私のことをわかってくれている この人は私のことをわかろうとしてくれている この人がいれば安心だ この人なら落ち着く この人なら頼める この人が言うならやってみよう この人が言うなら我慢しよう この人には好感が持てる

と利用者さんが思ったり、言ったり、行動してくれるということで一応の評価が出来ると思います。これが主観ではなく、チームで検証できるとより評価が確かなものになると思います。

そして、介護におけるコミュニケーションの役割は

①利用者さんのアセスメントを行うこと ②コミュニケーション自体で利用者さんにケアをすること ③利用者さんと仲良くなること

であると思います。

一般的に「会話をする」≒コミュニケーションと捉えている人に対して「今あなたに求めているのは、介護という対人援助業務の中で適切な援助関係を築くためのコミュニケーションですよ」という区別をしっかりと伝えなければなりません。 そして「コミュニケーションを取ってください」と新人さんたちに伝える際は、①②③のどれをメインに行うのかを伝えて、それに伴うスキルやゴールを一緒に示してあげると丁寧です。

①は利用者の心身の状態や社会的環境、生活歴、日常生活上の課題やニーズを聴いたり、観察したりすることです。 これには主に『質問』のスキルや、相手の行動や言葉を引き出すための『提案・交渉』するスキルが必要です。 ゴールとしては利用者さんのことについて一側面でも多く知ることができ、そこから利用者さんの生活課題やニーズを自分なりに考えてみたり、他のスタッフと共有したりできると良いですね。 自分がアセスメントしたことについてそのことが活きて、チームメンバーと共にケアとして提供される過程を体験できたならば、新人さんは自分の取ったコミュニケーションに自信が持てます。

②は利用者さんのお話を『傾聴』したり『承認』するスキルによって、利用者さんと会話をする中で意図的に相手をケアしていくことです。 ゴールとしては、利用者さんが秘めている想いを吐露できたり、愚痴が吐けたり、感情的な表現が出てきたり、また一段深い悩みや苦しみが出てきたり、「そうなんですよ」「ありがとう」などの言葉が出てきたり、客観的に元気になったということが挙げられます。 ①よりも難しいコミュニケーションだと私は考えています。①で見えてきた利用者さんの情報等をもとに、焦点を当てて深めていくという、段階的なアプローチが必要であり、指導者のフォローアップや具体的の助言などが必要になってきます。

③の仲良くなるというのは、一緒に何か行動したり、時間を共有するということになります。 そのためには①②により適切な援助関係がある程度確立されていることが必要になります。行動を促すための「提案・交渉」するスキルや環境を整えることができなければいけません。 一緒に行動をすることで、利用者さんの新人さんに対するエピソード記憶は印象に残るものになります。 新人さんはいきなり③を行うことは難しい場合もあるので、指導者としては、一緒に行動をするための環境設定やきっかけ作りをしてあげることも必要です。

最終的には、新人さんが利用者さんと『適切な援助関係』になり、ケアを担うチームの一員に育ってもらいたいわけです。 そのために、その新人さんにとって①②③のどのコミュニケーションをメインに体験していただくことが大事か、指導者としては面接の中で一緒に決めていくことが大切です。 具体的なスキルを詳しく研修したり、他の生活支援技術の研修を行ったり、彼らがより良い学びができるために必要なフォローアップを行うことでより効果が高まりますね。

コミュニケーション、介護の初歩の初歩として誰もが向き合う課題ですが、しっかりと噛み砕いて意図を持って伝えていきたいですね。 新人さんに指導する中で、再度私自身がコミュニケーションの意味を深めさせていただいている今日この頃です。

ざっくりと書いてみましたf^-^;

※本稿は、金山峰之さんからの寄稿記事です。2013年10月19日に、ご自身のブログ「介護の専門性新提案」において掲載した内容を、一部編集のうえ掲載しています。