介護現場のハラスメントについて、厚生労働省の『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』を読み解きながら、介護現場のハラスメントについて考えるシリーズです。 今回の記事でも、こちらのマニュアルに掲載されていることを引用しながら、介護現場の職員が求めるハラスメント対策の整備や必要と思われることについての調査結果を見ていきたいと思います。

前回: 介護現場のハラスメント対応④〜介護事業者のハラスメント対策整備〜

<事業者による防止策と対応策について>

最初の図表は「利用者・家族等からのハラスメントの対応として必要なこと」です。

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どの事業形態でも「相談しやすい組織体制の整備」「利用者・家族等と事業所・施設による相互的な確認」「事業所内での情報共有」が上位となっています。 やはり、きちんと相談できる体制を組織で整えて欲しいということが大前提としてあり、その上で利用者や家族と何ができるか、何ができないかというサービスの範疇や、ハラスメント自体についても共通認識を組織として合意形成を図ることが大事だと認識されているということですね。職員の介護技術の向上などに比べて、やはり組織としての体制が重要であるということが見えてきますね。

次の図表は「利用者・家族等からハラスメントを受けた場合に施設・事業所に希望する対応」ということで、実際にハラスメントを受けた時に職場に求める対応です。管理者やリーダーとしては、このあたりが職員から求められているということを押さえておきたいですね。

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職員から一番希望されていることは「ハラスメントの報告をした際、今後の対応について明確に示して欲しい」ということです。勇気を出して相談をしたことを傾聴するだけではダメということですね。「で、どうしてくれるんですか?」という問いにきちんと方針や対策を示せるかどうかということです。 管理者やリーダーとしてはなかなか難しいところもありますね。

あえて言葉を悪くいうと、職員のわがままだったりする場合、全てそれに対応を示していると現場が混乱したり管理者やリーダーが疲弊してしまいます。一方でそういう感覚があると、本来きちんと対応すべきSOSの相談まで排除してしまいます。

だからこそ、管理者やリーダーが公平に皆で検討できる話し合いの場を設けることが次に求められているのかもしれませんね。この時注意しなければいけないのは、話し合いの場が設けられたら良いというわけではなく、大事なのはその中身ですよね。

声をあげた職員が、話し合いの場で他の職員から「それはあなたが我慢すれば良い」「私は別に気にしない」などと逆に公開で批判されるような場になってはいけません。大局的に一人の職員が受けたハラスメントを組織としてどう考えていくか、という場の進行や安心安全の環境づくり、それと利用者本人のQOLやケアという視点を両立させながら進めていくということになりますね。

<介護現場におけるハラスメント対策の必要性について>

『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』のP12に、介護現場におけるハラスメントの認識についてまとめられているので、ひと段落ごとに引用して見ていきたいと思います。

  • ハラスメントはいかなる場合でも認められるものではありません。この職業を選択し、 日々業務に従事する職員を傷つける行為です。また、ハラスメントは、暴行罪、傷害罪、 脅迫罪、強制わいせつ罪等の刑事法の構成要件に該当しうる行為です。

  • しかし、介護現場でハラスメントを受けた職員や、ハラスメントによりけがや病気とな った職員、仕事を辞めたいと思ったことのある職員は少なくない状況です。

一、二段落目で、ハラスメントが犯罪等に該当する行為であり、その影響で従事者の心身に大きな被害がもたらされることについて触れており、従事者を守るべきことについて再認識を促しています。 介護福祉現場の長い慣習もあるかもしれませんが、ハラスメントに耐えることは美徳でも何でもなく、志ある従事者をきちんと守ることが重要ですね。

  • また、事業者による対策は全体的には十分とは言えない状況ですが、事業者(事業主) は、労働契約法に定められる職員(労働者)に対する安全配慮義務等があることから、その責務として利用者・家族等からのハラスメントに対応する必要があります。

三段落目では、事業者に対して職員への「安全配慮義務等」があることに触れており、対策すること自体が義務であることが書かれています。個人的には、これは事業者ですので、単に管理者やリーダーなどの中間管理職が一人で抱え込んで悩むことでもありません。経営陣含めて法人として取り組まなければならないという認識が必要です。

  • 一方、ハラスメントを行っている利用者・家族等の中には、著しい迷惑行為を行っている と認識していない人がいると考えられます。また、疾患、障害、生活困難などを抱えており、心身が不安定な人もいることにも留意する必要があります。しかし、ハラスメントの発生の有無は、受けた職員の感じ方や利用者等の性格・状態像等によって左右されるものではなく、客観的に発生の有無を捉え、再発防止策を講じることが必要です。

四段落目では、前半で、要介護者や障害者の生活課題や心身状態に留意することに触れています。ここが私たちの職業として考えるべき難しい点の一つですね。

そして、大事なのは後半です。ハラスメントは、「受けた職員の感じ方」「利用者等の性格・状態像等」によって左右されるものではない、ということですね。 ここが個人的にはポイントだと考えます。 つまりその後に続く、「客観的に発生の有無を捉える」ことが重要で、きちんと再発防止策を講じることの必要性について述べているのです。

我慢できる職員、できない職員とか、認知症状態にある方、そういうご性格や生活歴、昔の男性、とかそういうことではなく、行われた行為そのものがハラスメント行為であるのかを客観的に捉えて、再発防止に努めるという、ある種ドライに捉えることが必要、ということなのですね。 逆にいうと、感情や価値観が入ると難しくなるというテーマなのですね。

発生している行為を客観的に捉えた上で、実際にそのような行為が行われているのであれば、そこで初めて「認知症状態である」ということ等の状況を踏まえて、再発防止策を講じるという順序なのです。

  • ハラスメント対策は介護職員を守るだけでなく、利用者にとっても介護サービスの継続的で円滑な利用にも繋がる重要な対策です。

こうしたハラスメントに対する一連の捉え方、対策の順序について触れた上で、こうした対策が、職員だけでなく、利用者も支え続ける重要なことであると触れています。

いかがでしたでしょうか。 次回は、私たちが一番知りたい「じゃあ、具体的にどうすれば良いのか」という実際的な話題について見ていきたいと思います。

ちなみに、引用させていただいている『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』ですが、この中身を構成している元になる『介護現場におけるハラスメントに関する調査研究 報告書』という資料もあります。こちらはマニュアルよりもより詳細な調査結果が掲載されていますので、ここまでのシリーズで、もう少し学んでみたいと思った方は、こちらも参照して見てください。

株式会社 三菱総合研究所『介護現場におけるハラスメントに関する調査研究 報告書』(平成31年3月)