前回の記事で、国が示す科学的介護情報システムLIFEと、私たちが現場でおこなっているはずの科学的思考の介護について書いてみました。記事を読んでくださった方の中には、「科学的思考の介護なんてやっていない」「そんなことやっている余裕がない」「そんなの習っていない」と思った方もいるかもしれません。  今日はそうした背景に触れつつ、私たちがLIFEにいいように支配されず、LIFEを利用者さんのより良い生活や人生を支えるための大切なツールの一つとしていくこと、そのために科学的思考の介護を身につけていくことについて考えていきたいと思います。

<二つの科学的介護を対比させてみた>

 まず、「科学的介護情報システムLIFE」と「科学的思考の介護」(PDCAとOODA)を比較してみました。あくまでも私見なので、突っ込みどころはたくさんあると思いますが。

図1

こうして見ると、私は科学的介護情報システム(LIFE)はPDCAのP(Plan:計画)やOODAの二番目のO(Orient:仮説構築)で活用されるべきものの一つと捉えれば良いのではないかと思います。『あくまでも活用されるべきものの一つ』です。ただ、他の情報や理論、知識よりも、確率が高いものという位置付けです。  私たちがPDCAやOODAできちんと実践できていれば、LIFEは良いツールになると思うのです。しかし、PDCAやOODAのような科学的思考の介護ができていないと、私たちは「LIFEが言っているからこうしましょう」と疑いもせず利用していってしまうかもしれません。介護職やケアマネジャーなど支援者がみんなそうなってしまうと、全部LIFEに従えば良い、ということになり、私たちの職業そのものの価値も存在意義も薄くなっていってしまうかもしれませんね。 繰り返しますが、LIFEは私たちが科学的思考の介護を実践する中で、ご本人のために活用するものの一つである、という認識を忘れずにいきたいものですね。

<科学的思考はどう身につけるか>

 そもそも、「そんな習慣はあまりない」「現場は経験でやれている」「先輩からも教わったことがない」ということを感じる方が多いのはなぜでしょうか。  それはシンプルに、科学的思考の介護を教わらずに、習わずに来ている介護従事者が多いからです。これは個人が悪いということではなく、制度や養成の構造がそうなっているからです。  やはり、日本には増大する介護ニーズに対して、介護従事者をたくさん増やさなければいけないという課題があります。今でこそ、実務経験で介護福祉士を目指す人には「実務者研修」が課されて、「介護過程」の科目を修了しなければならなくなっていますが、長い間そうはなっていませんでした。  ですから、介護現場で働く多くの方が科学的思考の介護を習ってもいないし、やってもいない、と思う方が多いのです。私たちの先輩や上司の方々がそもそも習っていないということが多いでしょうからなおさらです。

 しかし、ここまで述べてきたように、LIFEが本格的に始まる時代を前にして、やはり習っていなくても科学的思考の介護を身につけていくことは、介護職としてのキャリアアップとしても必要ですし、LIFEに支配されない自律した専門職として重要だと思います。    さて、ではどうやって科学的思考の介護を身につければ良いのでしょうか。答えはシンプルですが、難しいものです。基本的には「振り返る機会を作る」ということです。図に示した「振り返りの機会:Reflection」ですね。  対人援助の専門職はこうした振り返りの機会によって、現場の実践力を高めていく方法があります。一般的にスーパービジョンと呼ばれるものですが、先輩や上司に現場の実践を聞いてもらいながら、フィードバックやリフレクションの機会として教育されていくものです。  今の介護現場ではこの振り返りの機会が著しく少ないのですね。多分多くの人が「自分の介護が良いのか悪いのか、適切なのかを教えてもらう機会が少ない」と感じているのではないでしょうか。その感覚が介護現場での振り返りの機会の少なさの実感だと思います。

図2

実は看護の世界では、この振り返りの機会によって専門性が向上し、初心者がベテランになっていくというモデルがあり、教育に生かされているといいます。

図3

介護職もこうした振り返りの機会を作っていくことで、科学的思考の介護が少しずつ身についていくと私は考えています。

 「理屈はわかったけれど、そんな時間も機会もない」という方も多いかと思います。そこまでやらなければいけないと言われても負担だと思う方も少なくないと思います。時間がないという方や、周囲にそういう機会がないという方には、毎日の小さな積み重ねの方法をお伝えしたいと思います。  今日関わった利用者さんに対して、自分はどんな「観察」をして、どんなことを「考えて」、その結果「何をしようと決めて」実際に「何をして」、利用者さんは「どうなったのか」を1、2行で良いので、日記のようにメモしてみることです。  これが習慣になってくると、少しずつ科学的思考の介護が身についていきます。職場でそんなことが話し合える仲間がいれば素晴らしいですし、新しい知識を勉強することも良いかもしれません。

 私たちは専門職です。医師も看護師も他職種は生涯学習している職種です。私たちも学び続けなければいけないのではないでしょうか。もちろん、職場や業界団体も色々と学びの機会を作っています。そうしたものを活用したり、外に学びにいくことも大切です。介護職は、自ら学びに行かなければいけない。それが専門職だと私は思います。そんな場を私も身近なところから作っていきたいと思っています。科学的介護の時代に、自らの専門性を高めていくために、自己研鑽を一緒に頑張っていきましょう。