さて、前々回前回と2回にわたって、利用者さんの呼び方について考えてきました。 今日は、言葉遣いも含めて、どのような言葉遣いを使うべきかについて考えてみたいと思います。

さて、介護現場の言葉遣いについて考えていく時、以下の3つのパターンがあるように思います。

  1. 「お客様」に対して「〜様」とお呼びして、基本的には「敬語」を用いる。
  2. 「(苗字)+さん」でお呼びして、基本的には「ですます調」を用いる。
  3. 愛称を好む人には用いて、時には砕けた言葉遣いも関係性によって用いる。

大きく分けるとこの3つでしょうか。 皆さんはどのスタンスでしょうか。

今回の記事では私個人の考えに基づく見解が多分に出てきますので、違和感や反対の気持ちがあれば、それは言葉にしてご自身の大切な価値観として持つことが大切だと思います。 その前提で、私はこの業界に入った時①から始まり今は②に落ち着いています

まず①について。これは一般産業、対人相手のお仕事やビジネスの世界では一般的に用いられるものではないかと思います。しかし、介護業界で私は①が一番少ないように感じています。 これは前々回の記事でも挙げたように、介護保険制度サービスというものが、公費を用いた社会保障、福祉サービスの一環であるということが一つの根拠だと考えています。全額自費で個人が負担されているサービスであれば対価に見合う主張や接遇を受けられる根拠になるかもしれません。しかし、このサービスは共助の基に成り立つものなので、あまりにもお客様扱いされることは適していないかもしれません。 また、介護保険制度の理念である自立支援や尊厳の支援プロセスにおいては、時に「ご本人のwantにNoを突きつけ、ご本人のNoに意図的に介入」するということがあります。これは一般のサービス業とは異なる介護福祉、対人援助サービスの特徴の一つでもあります。 ですから、①はスタンダードとは少し違うのではないかと考えています。

そして、③について。まず大前提として、利用者さん個人と介護職の間には、深い情緒的なつながりがあり、他に真似できないような強い絆で結ばれている関係性が存在していることは私も経験則として理解しています。またそういうキャラの介護職がいることも理解していますし、それが良いケアを生んでいることも十分わかっています。ですから、ある介護職がある特定の利用者さんと愛称で呼びあったり「〜だよね」「わかるわかる」という言葉遣いをすることが自然に感じられることもあります。

ただしかし、私たちは介護福祉の専門職であり、公費をその給料としている者です。であるならば、その言葉遣いを用いる根拠を示さなければなりません。 その時、概して「関係性」という表現が用いられるのですが、これは明確に表せる尺度がありません。 「介護花子さん」という利用者さんに対する、A職員の関係性が何点で、B職員は何点であるから、何点以上なのでAスタッフは愛称で呼んで良い、ということはなかなか表現できないものです。 表現できないことを「関係性」という主観で表現してしまうと、仮にそれが本当に成立している職員は良いですが、成立していない関係性の職員が“勘違い”をしてしまいます。 つまり、自分も利用者さんと関係性ができていると思い込んでしまう倫理破綻がおきます。 ですから、関係性を理由に③を用いることはチームケアの側面から用いるべきではないと私は考えるのです

時々、介護職員は③で話しているのに、利用者さんは敬語を使われている場面があったりします。大変な違和感に感じないでしょうか。

また、本人が「“〜ちゃんて呼んでください”と自分は言われた」ということを根拠にされる方がいます。その場合は是非、支援経過記録や計画書に支援として明記して、カンファレンスの場を設けて、その言われたスタッフのみが愛称で呼ぶことを支援とするということを共通認識にして、ケア方針にしなければいけません。

実際私は過去、そのような現場を経験しました。手続きを踏んでいないことをなぁなぁにしていくと、言葉遣いが次第に乱れる職場の出来上がりです。 言葉遣いの乱れは一般的に不適切ケアと位置付けられ、虐待の温床であると虐待防止関係の文脈では考えられています。

繰り返しますが、私は関係性による絆が存在することや、そうしたことが良いケアを生むことも十分わかってはいます。ただ、チームで多くの価値観を有する仲間と協働していかなければならない中では、言語化できるレベルに落とし込めないならば、基本的には②を使うべきではないかと思います。

いかがでしょうか。この記事の内容が正しいかどうかというよりも、皆さんはどう考え、どのようにするべきと考え、実際に実践するか。是非これを機にもう一度、ご自身と職場の言葉遣いを考えてみて頂けたら幸いです。