介護現場のハラスメントについて、厚生労働省の『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』を読み解きながら、介護現場のハラスメントについて考えるシリーズです。

今回の記事でも、こちらのマニュアルに掲載されていることを引用しながら、介護現場におけるハラスメント対策の整備や必要と思われることについての調査結果を見ていきたいと思います。

<事業者による防止策と対応策について>

最初の図表は「事業者によるハラスメントの防止策の整備状況」です。 ハラスメントの発生を抑えるために具体的にどのような予防策をしているかということです。

図表7

どの事業形態でも行われているのは「利用者・家族等の様々な状況からハラスメントのリスクを施設・事業所内で検討する体制がある(攻撃的な態度やハラスメント行為の前歴を確認するなど)」になっています。これは、想像するに、日々のカンファレンスやチーム会議、サービス担当者会議で話し合われる機会があるということでしょう。日々の業務の中で自然と話し合われる体制の中に組み込まれているとも言えますね。 ただ、少しひねくれて読んでみると、どこの事業所でも基本的にはサービス担当者会議などは行わなければいけないので、十分な予防策になっているかは何とも言えませんね。つまり、話し合いの場はあっても、個々の議題としてきちんと話し合われているかは別ということですね。

次に多い予防策としては「特定の職員が長期間固定して特定の利用者を担当することがないように職員配置している」というものですね。つまりはシフト調整をしてスタッフで負担を分散しているということでしょう。これは具体的な対策として多くの事業所で行われていると思います。ただ、これは対処療法でもあるので、どうしても配置されやすい常勤職員やリーダー職が対応する割合が増えて、その職員への負荷は次第に積み重なっていくので、根本対策が重要ですね。

次には「同性介助が実施できるように職員配置している」とありますが、これはセクハラへの対策の意味合いが大きいでしょう。ただ、一対一で行う訪問系サービスや、ケアマネジャーは難しい予防策になりがちです。 回答の中でも比較的具体的な対策としては「ハラスメントの発生ケースを振り返り施設・事業所内で再発防止を検討する体制がある」になりますでしょうか。きちんと事例を検討して、再発予防をする体制があるというのは具体的に発生リスクを抑える効果があるかもしれませんね。

あとは予防策について「特にない」としているところも1割前後あるようで、そうした事業者では様々なリスクを抱えていると言えるでしょう。 できる話し合いやシフト調整が主たる予防策であり、根本的な予防策として十分なのでしょうか。皆さんの印象はいかがですか。

さて次は「事業者によるハラスメント発生時の対策方法」ということで、実際にそれが起きた時に事業者がどうしているか、という結果です。

図表8

どこの事業形態でも行なっているのは総じて「事実確認」「職員と話し合い」「今後の対応を示す」そして「利用者・家族と速やかに話し合う」という対策が続きます。実際に被害を受けた職員は関わらないように調整するということは訪問系は他の事業形態より少し多いようです。

総じてみると、起きた時は対応せざるを得ないので、対応している割合が多いですが、起きないようにする予防策は相対的に少ないという結果ですね。

『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』にはその他、労働団体などの取り組みも記載があります。 例えばUAゼンセン日本介護クラフトユニオン(介護系の労働者組合)では法人と利用者や家族とハラスメント防止の協定を結ぶ取り組みを始めているとあります。これは、あらかじめ「ハラスメントはご遠慮願いますよ。ハラスメントはこういうことですよ。ハラスメントがあった場合こうさせていただきますよ」という内容を定めたものでしょう。 例えば、最近病院などに「職員へのハラスメントや暴力は禁止です」という張り紙があったり、駅でも「駅員への暴力は犯罪です」という張り紙を見かけることがあると思います。こうしたことをきちんと協定として結ぶというものと想像されます。 色々な防止策がどこの業界や現場でも試行錯誤しながら取られているということですね。皆さんの法人、現場では何か具体的な予防策はされているでしょうか。

今回の記事では、事業所における、ハラスメント予防策と実際に起きた時の対応策について見てみました。 次回は、職員から見たハラスメント対応や事業者に求めることについて、見ていきたいと思います。