介護福祉士の仕事で、利用者さんと共に生活活動を行ったり、介助をさせて頂くという行為からアセスメントやコミュニケーションを行う生活場面面接があります。 私たちはケアワークという仕事を中心としていますので、相談援助職のように改まった場面での面接よりも、一緒に過ごす中での面接、ふとできた時間での面接が多いわけです。
そうした中でも、やはり援助関係を形成する上での古典である「ケースワークの原則」にある「バイスティックの7原則」は重要な援助原則だと考えています。
今日は、この7原則のうち、「統制された情緒的関与(=援助者は自分の感情を自覚して吟味する)」を実際に展開してみた現場を振り返り、介護福祉の仕事におけるこの原則について考察してみたいと思います。
まずこの「統制された情緒的関与」とはどんな原則なのかを簡単にまとめてみたいと思います。
1.相手の感情に対する感受性を持ち、その感情を理解し、援助という目的を意識しながら、その感情に適切なかたちで反応すること。
2.感受性とは、相手の感情を観察し、傾聴していく技術であり、そのためには自分自身の自己覚知が必要である。
3.相手の感情を理解するためには、人間に共通することの知識が不可欠で、更にその感情を相手が抱える問題との関連性の中で理解する必要がある。
4.相手の感情を感受して理解し、そして適切に反応するという技術が大事で、この反応が最も難しい技術である。
5.適切に反応するためには、どう答えようか、という外的表現方法ではなく、その感情を受けたことで自分自身の内的反応に気づくことが大事である。
6.その内的反応が相手への援助目標や面接の目標として適しているかを吟味する必要がある。
7.吟味し、相手を受け止めようとしている態度や、相手の困難を理解しようとしていること、心理的サポートだと感じられるよう伝える(反応する)。
一言で乱暴にまとめるとすると『相手の感情にベストな返しをする』ということですね。
Mさん、要介護2、独居、80代女性。変形性膝関節症、喘息。
大腿骨頚部骨折による入院、リハビリ、退院後の利用契約でした。それまでは自宅や近所の商店での買い物が日常生活圏域であり、近所づきあいが盛んでもなく、自宅でテレビを見て過ごしていた方でした。 小規模多機能をご利用されて日は浅いのですが、通いによる他者との関わりや諸活動に対してとても好印象をお持ちで、皆さんと一緒に過ごしたい、また来たい、という想いは強い方です。 近所づきあいがあるスタッフもたまたま居たので、馴染みの関係性を求めていたり、外に出ることで下肢機能を回復させたいという想いも強い様子でした。
しかし、持病の痛みや苦しさや、通い利用されている際に発作が起きたりして、少しずつ通えなくなり、訪問対応が多くなっていました。
「行きたいんだけど、皆さんに迷惑がかかるから」ということをおっしゃっているようでした。 訪問スタッフが来ると、それは喜んで笑顔でずっとお話をされているという状態だったようです。
Mさんには、骨折前に送っていた日常生活圏域での活動を再開していただけるよう、通いによって生活リハビリを重ねつつ、病状の管理、服薬確認、安否確認、入浴を含めて通いサービスを計画していました。 しかし、通えなくなることで、薬届けや食事を届ける等の訪問サービス内容が増えました。
Mさん宅へ訪問を一度もしていなかった私が、ここまでの状況を踏まえてMさんのお気持ちを直接聞いてみようと、訪問しました。
Mさんは事前情報のとおり「本当は行きたいんだけど、皆さんに迷惑がかかっちゃ悪いから」「元気になったら行きたいんですよ」「また皆さんとお寿司食べに行きたいわ。本当に美味しかったから」というようなことをおっしゃっていました。
通いサービスを利用していた時の話題については笑顔で思い出し笑いをしたり、スタッフや一緒に活動した他の利用者さんのことを話していました。 しかし、実際に通うという話題になるとうつむき加減で、声のトーンは下がり、笑顔ではなく、遠い目をして自嘲気味な表情でため息混じりでした。
その2に続きます。
※本稿は、金山峰之さんからの寄稿記事です。2014年7月19日に、ご自身のブログ「介護の専門性新提案」において掲載した内容を、一部編集のうえ掲載しています。