さまざまな現場でご活躍される多種多様な介護職の方に、ただひたすらインタビューしていく「カイゴ録」。

Nさんの「カイゴ録」は、今回の後編で最後です。 介護観が変わったNさんが、その後どんな風に現場で奮闘したのか、そして「もう1つのこだわり」について、インタビューしていきます✨

Nさんのプロフィール

Nさん

Nさん
介護現場に勤めて約20年。現在は首都圏の特別養護老人ホーム(特別養護老人ホーム あったかの家)に勤務

自己紹介


■特別な日をきっかけに、普通のことに生かす

けあ子

けあ子

前回のインタビューでは、移乗と誕生日会の2つにこだわりがあると伺いました。誕生日会の方を教えて下さい😄

Nさん

Nさん
はい。まず過去の現場で「みんなの夢叶えたいプロジェクト」というのがありました。施設に入っても、1人1人の夢を叶える、その夢を聞き出すところからやるというプロジェクトです。大賛成だったのですが、せっかく夢を聞き出しても、なかなか実現に至らない…という経験がありました。 いつやるの?が明確でなかったからだと思います。
こんなちょっとした夢でさえも叶えることが出来ない・・・その経験は強く印象に残っています。

けあ子

けあ子
そうなんですね💦

Nさん
そこで「誕生日は、必ず来る」と考えて、どんな誕生日にするか?その方をどう主役にするか?という工夫に注力するようになりました。もちろん誕生日ということで、晴れの日だけを楽しく、ということではなく、普通のこととしてつなげていければ、とも思います。

けあ子

けあ子
どういうことでしょうか?✨

Nさん

Nさん
誕生日は必ず一年に一度来るので、夢を叶える日にしようと考え、各担当者に企画を促しました。誕生日会に、というわけではなく、どんなことをしたいか、食べたいものはあるか、行きたいところはあるか・・・などを聞くようにします。もちろん答えられない方も多いです。家族にお聞きすることもあれば、昔こんなことが好きだったから・・・と想像を働かせることもあります。こじつけであっても、その人を主役にすることが大事だと思っています。お話できる方だと、会話が広がって、その方をより知ることにもなりますし、何気ない日常会話からヒントを得ることもあるので、誕生日どうしよう?と意識することも大事だと思っています。

Nさん
以前の職場ではユニットリーダーで、お年寄りの担当はもっていなかったので、企画書を出してもらって練り直したり、サポートしたりしていました。故郷の河津桜を見に行きたいといわれ、企画したもののガンの末期で、最終的に本人がいかない決断をされたという苦い思い出もありますが、数人の酒飲みおやじの誕生会でキャバレーまがいのことをやったりもしました。こういう企画は今の職場に来てからも自分としては継続してやりたいこととして立案していましたが、今年度は居室担当の仕事の一つとして「誕生日会を企画する」が事業計画に盛り込まれ、今は居室担当も持っているので、あれこれ考えてやっています。

けあ子

けあ子
なるほど✨

Nさん

Nさん
また、私の担当ではないのですが、「料理をしたい」という方がいました。旦那様の面会時に「旦那は早くに死んだのよ。この人は父親なの」などと言ってしまうこともある方なのですが、洗濯物をたたませれば新品が店に並んでいるかのようですし、手編みのカーディガンをベストに作り変えてしまうような技も持っていらっしゃる方です。作りたいものは、「お煮しめ、いなりずし」ということでした。ともすれば、「料理を作って祝おう」ということになりがちですが、この方の場合はフロアで料理していただくことにしました。さらに息子様とご主人様をご招待して、「おふくろの味」を楽しんでいただくことに。もちろん、他の方にも手伝っていただきます。ピーラーなら使えそうだとか、できそうなことを探して、できるだけやっていただく。

Nさん
ついつい手を出す職員にストップをかけながら。お祝いだけでなく、これこそ生活リハビリということをたくさん引き出せます。無理じいはしませんが、普段レクなどに顔を出すことのないおじいさんがきゅうりをスライスしてくれたり、テレビ見てるだけの人がゴマをすったり、冷や汁の時もいろいろステキな一瞬を見てきました。入所以来、食べることに意欲がなくどうしたものかと思っていた方が、おいなりさんに食いついて、以来食べるようになった・・・などという予想外の副産物もあったりします。

けあ子

けあ子
そうなんですね😄


Nさん

Nさん
別の方では、106歳のおばあちゃまで、ふだんは食事とトイレ、お風呂時以外は体力を考えてほとんど臥床されていたり、眠っていて食事がとれないこともざらにある方ですが、昔学生食堂でハヤシライスを作っていらして、体調がいい日は多弁になって「いつか皆さんに作ってあげます」とか細いながらもしっかりとお話ししてくださる方にも、ハヤシライスを作るという企画がありました。家族が面会に来た日は目を覚まさなかったのに、この企画当日は朝からぱっちり目をあけ、そして、まさかと思ったのですが、エプロンをつけて包丁を握ったら、目つきが変わって、真剣な表情でニンジンを切り始め・・・周囲に驚きと感動を与えてくださいました。

ハヤシライス

Nさん
食べ物を作ることも多いですが、ほとんど発語はない方で、パン屋を営んでいた方に店主をやっていただいて、他の皆さんに買い物していただいたり、こたつを持ち込まれている方がいて、その方にお祝いしていただきながらみかんを一緒に食べてあたたまる~とか、お花が好きだった方のために皆さんで花を生けてお祝いするとか、外食、職員による出しもの、中には回想法をやりたいと、過去の写真や家族からの情報などを集めて、映像にしたてるような職員もいます。何をしたらいいかとても悩むケースもありますが、当日ケーキを食べてもらう、だけでは済ませないよう、自分の立場としては根回ししたりおぜん立てしたりしています。一か月間での合同誕生日会も月によってはあります。今後、わがユニットのお煮しめやハヤシライスを、地域の方に提供する・・・なんてこともやってみたいと思っていたのですが、早くコロナが収束してほしいです。

けあ子

けあ子
そうですよね💦


■「『どうやったら出来るか?』それを考えて工夫するのが、介護」

Nさん

Nさん
これは今の課題なのですが・・食形態を上げていくことにも、こういった誕生日会などが生きます。例えば、本当に食べられないのかな?をみる機会になります。「おにぎり食べられるじゃん」とか「あの時は食べられた」とか「いつもムースだけど、いくらも食べられるじゃん」などです。食形態を上げていくのは、栄養士やSTと日常でやっていくものですが、行事の中で、既成事実を作っていく感じでしょうか(笑)。

けあ子

けあ子
なるほど〜(笑)

Nさん
むせるから、飲み込めないから、ということで、刻み食になることが多いです。が、本当にそれが食べやすいのか?食形態を落とせばいいのか?噛まなくてもいいものを食べて本当に美味しいのか?など・・・こういったことを考えて、進めていく上でもとっても重要です。移乗のところで出てきた下山先生の言葉で「『どうやったら出来るか?』それを考えて工夫するのが、介護」という言葉があって、それはとても大事にしながらやってきましたし、これからもやっていこうと思います。

どうやったらできるか



Nさんの「カイゴ録」、いかがでしたでしょうか?✨こんな形で、現場で活躍される介護職のこれまでや今を、ひたすら伺っていく「カイゴ録」です。 この企画は、インタビュー終了後にその方が尊敬する方をご紹介いただき、次回はその方にインタビューをさせていただく、という流れになる予定です😄

次はどんな方にインタビューすることになるのか・・・是非楽しみにお待ち下さい⭐️