介護現場のハラスメントについて、厚生労働省の『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』を読み解きながら、介護現場のハラスメントについて考えるシリーズ。 今回が最終回です。 今回も、こちらのマニュアルに掲載されていることを引用しながら、具体的な予防策や対応策について見ていきたいと思います。

前回: 介護現場のハラスメント対応⑤〜介護現場職員が求めるハラスメント対策〜

<ハラスメントの予防策>

ハラスメントについては、虐待防止などリスクマネジメントの考え方が推奨されています。 マニュアルではまずは下記の点について事業所、組織として取り組むことが書かれています。

  • ハラスメントに対する事業者としての基本方針の決定
  • 基本方針の職員、利用者及び家族等への周知
  • マニュアル等の作成・共有
  • 報告・相談しやすい窓口の設置
  • 介護保険サービスの業務範囲等へのしっかりとした理解と統一
  • PDCAサイクルの考え方を応用した対策等の更新

少し形式的な印象を受けるかもしれません。しかし、私も先日このテーマで研修をさせて頂きました。事例をもとに、「こんな時どうする?」という方針を考えていただいたのですが、一つの事例検討だけでも、様々な意見が出ました。方針を決めることはその方針を徹底することです。方針通りに進めると、時に弊害や課題が出てきます。それは許容した上で方針を貫徹できるかというと、またみなさん悩まれたご様子でした。

みなさんも是非やってみていただきたいのですが、いかに今の介護現場で利用者や家族等からのハラスメントについて公式に話し合われていないか、私たちが経験則や感覚で対処してきていることが痛感できると思います。

つまり、形式的ではありますが、まずはこれらに取り組んでみることが第一歩ということなのでしょう。

<ハラスメントが発生した時の対応>

ハラスメントが起きた時は『初期対応』が大変重要だと書かれています。以前の記事でも、職員側からきちんとした対応が職場に求められているデータが示されていました。ハラスメントの相談があったり、その事実が発覚した際は、迅速に対応することが大切です。しかし、被害に遭った職員に原因を頭ごなしに求めたり、曖昧な事実確認や主観での対応、その職員ごとのいわゆる“キャラ”などで進めてはいけません。そのために下記のポイントが重要です。

  • 被害に遭った職員のケア、フォローを行う
  • 本人以外の他の職員からも、日頃の当該利用者の状況など情報収集を行う
  • 具体的にどのように対応していくか話し合いの場を持つ
  • どのような方針にしていくのかを決めて、それぞれに周知していくこと
  • 職員研修や委員会などを定期的に開催すること
  • 実際の事例について記録を残し、検討するために蓄積すること

このようなことが挙げられています。

また、相談しやすい環境づくりとしては、事故報告書やヒヤリハット報告書のように、ハラスメントを受けたことに対する報告書や相談シートなどツールを用意しておくことも推奨されています。 厚生労働省の『介護現場におけるハラスメント対策』ページでは、こうしたツールや研修資料、マニュアルとともに掲載されています。その中で、例えば、私たち介護従事者側の力量不足で利用者や家族等のハラスメントを誘発している可能性について、チェックシートが掲載されたりしています。日頃のケアの質を見直すという意味でも活用できるのではないでしょうか。是非参考にしていただき、役立ててください。

<介護現場におけるハラスメント対策について>

いかがでしたでしょうか。令和3年度の介護保険法改正はもう来月からスタートします。その中で、利用者に対する虐待防止や感染症対策の委員会や研修など具体的な現場のリスクに対して組織的に取り組んでいくことが義務として求められるようになります。

しかし、この介護現場における利用者、家族等からのハラスメントについてはまだまだ国も現場も着手し始めたところだと思います。

これからますます必要になる介護現場の人材。きちんとした専門職だけでなく、多様な方がこれから介護現場に参画してくれます。そうした人たちが健やかに、働きがいがある介護現場を作っていく上でも、介護現場におけるハラスメントについては真摯に取り組んでいかなければならないことだと思います。

シリーズを通してその一端に触れることができたかと思います。ご紹介したマニュアルや厚生労働省のサイトを参考に、みなさんの現場をより良くしていって頂けたらと思います。

また、3月9日付で厚生労働省全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議 別冊資料(介護報酬改定)【基準省令に関する通知案】 (※現時点版であり、今後、修正がなされる可能性があります) ということで、各介護事業における運営基準改定案が提示されました。この中で、介護現場における利用者や家族等からのハラスメントに対する、事業所の対策について必要な措置を講じるなどの言及が入りました。

下記は「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営の基準について」の該当箇所です。

今後ますます、事業所の責務、法人や管理職、現場職、皆でこのことについて取り組んでいくことが求められているということですね。

図1