介護に大切なことでよく言われることがある。

『相手の立場に立つ』『共感する』『相手の想いを想像する』『相手の弱さを認める』

どうすればこういうことができるのか?私はこれまで心理学やコミュニケーション技法など色々な面からこのことを考え、これができるようになることを目指し、できることこそ介護の専門性の一つだと考えてきた。

これを行えること、つまり『対人援助専門職である介護職がプロとして、老い、病、障害、その他の喪失体験によって苦悩する弱い利用者を助ける力をどうすれば持てるか?その力とは何か?』というプロ論、専門性論を探していたのだ。

しかし、これがなかなかできない。「ありのままを受け入れる」ということを言葉で伝えたり、身に付けようとすることがいかに難しいかを痛感している。だからこそ挑戦し続けてきた。

今日はそれに対する一つの答えが見つかったので書いてみたい。

私はここ最近大きな壁にぶつかっていた。これまで何事も頑張れば乗り越えられると思っていたが、今回はどうにも乗り越えられない。努力して考えて挑戦すればできてきたことが通じない。

それは利用者との微妙なすれ違いだったり、スタッフ間の意思統一の難しさだったり、すれ違いだったり、外部の方との話し合いだったり、プライベートでもそうだ。人との微妙なすれ違い、気持ちのすれ違いが私の周りにたくさん起きた。なぜだか分らなかった。

利用者との関わりを振り返ってみよう。

私は、利用者のより良い生活を支援するために、専門性を持ったプロの介護職として誇りを持って接してきた。少ないかもしれないが、良かったと思える事例もいくつか作れた。介護職はこうあるべきだ!と発信してきた。

しかし、実際はどうか?

好きな利用者もいれば嫌いな利用者もいる。笑顔で接していながら非言語メッセージは冷たくしている人もいる。悲痛な訴えに対して身に付けたコミュニケーション技法で上手く接して、相手の想いを引き出しながらエンパワメントしつつ、問題やデマンドは何か?ニーズは何か?と客観的に探ろうとしている。その人を「気の毒だ、可哀想だ」と思いつつ、「自分には関係ないこと、自分の身には起こらないこと」とどこかで達観視している。

これは普通かもしれない。しかし「こうしたことは介護職としてはあるまじきことで、そうしてはいけない!」と発信してきただけに、自分の言っている理想像と、現実の自分とのギャップはとても大きく感じた。

そう、私たち介護職は、利用者という弱くて哀れな人を守らなくてはならない、支援しなくてはならない、そういう使命を持ったプロの専門職なのだと信じていた。そしてそんな利用者に寄り添うことこそ一番大事だと信じてきた。

それはつまり、利用者という人を弱者としてその場に押し留め、自分たちは高い位置にいるプロの専門職として彼らを支援する、助ける力を持った強者として君臨することを目指していたのだ。目指していたことはフェアで対等な立場であったはずなのに、実際は上下関係を目指していたのだ。

「違うんじゃない?そこまでじゃないでしょ?」と言って下さる方もいるかもしれない。しかし、私は自分がそうしてきたのだと実感した。

振り返ってみると、対利用者だけではない。スタッフにも、上司にも、家族にも、友人にも私は自分が力を持つことによって人を助けることが良いことだと信じていた。そういう人だったかもしれない。良く言えば正義感と使命感、責任感があるのかもしれないが、それは自分なりの正義と使命と責任を自分なりの方法で押し付けていたことかもしれない。

このことに気付いた時、私は生まれて初めて自分を激しく嫌悪した。自分がこんなにも汚く、エゴの塊で、人を虐げてきたか。そして弱い人間だったのだと感じた。

自信は崩壊し、目標も見いだせず、自己嫌悪に陥り、人が怖くなった。そして自分がしてきたことを振り返り、羞恥心を感じた。自らを責めた。

そして、こんな醜い自分をみんなは笑うだろう。嫌がるだろう。避けるだろう。そう感じた。

『孤独』というものを生まれて初めて感じた。

現代はうつ病が流行っている、誰にでも起こり得ると以前新聞で読んだ。

「自分には絶対起こるはずがない。うつ病なんてなる人は弱い人だ」と思っていた。

今、うつ病になるという人の気持ちがわかった。

ここ一カ月は記事を書くのも辛かった。何せ自信が無いのだから。

そして、今。

私は目の前の霧が晴れて、清々しい気持ちにある。

どうしてか?

その2に続きます。

※本稿は、金山峰之さんからの寄稿記事です。2016年10月21日に、ご自身のブログ「介護の専門性新提案」において、掲載した内容を一部編集の上、掲載しています。

※ 金山峰之さんのプロフィール 介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員。法政大学大学院政策創造研究科修士課程修了。 在宅介護を中心に15年以上現場に従事。現在フリーの介護福祉士として、高齢、障害者介護現場の傍ら、介護人材の育成、講演、研究、コンサルティング等に従事