介護業界に流通している言葉・概念がある。

それは『気づき、優しさ、想いやり、尊厳、自立、人間性、感受性、相手の立場に立つこと、ホスピタリティ、もてなし、笑顔、ふれあい、助け合い、寄り添いetc』等という言葉に代表されるものである。

これらを総称して『介護の心』と本記事では表す。

今日はこの『介護の心』がいかに介護業界をダメにしているかを考えてみたい

介護現場で一番に求められることはこの介護の心である。いかに、知識・技術・理論を持っていたとしても、この介護の心を持ち合わせていないと現場では良い介護職とは呼ばれない。

現場で、一人の介護職のちょっとした言動の中に、他のスタッフが介護の心を感じられないとそれはすぐに批判の対象となる。

例をあげてみよう。

  • 「Aさんが夜勤の時って、早番が来る時間になっても、まだパジャマのままだし、パットも濡れてる人が多いのよね」  ⇒「Aさんって本当に“気づけない”よね。本当チョー役立たず」

  • 「Bさんて、今日お客様の前でしかめっ面だったよね。お客様の前で“笑顔”もできないなんてありえないよね。介護辞めろってカンジ」

  • 「うちの管理者っていっつも書類とか記録とかにうるさいよね。現場の苦労を全然知らないくせに。そのくせ介護は“想いやり”とか言って、自分が無いくせにエラソーなんだよね」

  • 「看護師のCさんて、本当に冷たいよね。ちょっと血圧が高いからって、安静ばっかり優先して利用者さんが外に行きたいとか“想い”を無視するよね。看護師は病気ばかり見て“人を見ない”よね」

などである。

現場だけではなく、こんな言葉もよくみられることである。

  • 「最近のビジネス志向の介護事業所って店舗数増やしているけど、質は最悪だよ。“介護は人”だよね。“一番大切な心の部分”が無いよねあの人たち」

  • 「介護は心!気付き!相手の想いに共感できる感受性!もっと、旅行に行ったり、芸術に触れたり、色々な経験をして人間性を磨かなくては!」


私は介護職が目の前の利用者さんに介護を提供するために、介護の心はとても大切な資質だと考えている。 (『介護の“専門性を新提案”する』)

しかし、その介護の心とは一体何なのか?その介護の心とはどのように身につけられるものなのか?そのことが問われず、深められずにいるように感じている。

介護の心が大事なことは十分にわかる。しかし、その介護の心という抽象的、かつ曖昧な概念を伝家の宝刀として振りかざし、それが無いものは介護を語るな、介護を担うな!と言わんばかりに切り捨て、介護職が専門職として深化していくことを妨害する、思考停止システムとして働いていることに大きな危機感を覚えている。

介護の心を語る人は、そもそも介護の心を持っているのか?それはどう評価するのか?それをその人はどのように身につけてきたのか?

断言しよう。介護の心とはそれを語る人の「主観的介護観」に他ならない!

つまり、介護には気付き、優しさ、想いやり~その他の介護の心が絶対に必要で、それが無いと介護をする資格がなく、それが無い者は酷い介護職で、その人たちに比べると自分は少なくとも介護の心を持っている!と“思い込んでいる”に過ぎないのである。

しかも、それではその介護の心を持たない者がどうすれば介護の心を身につけられるか?すなわち良い介護ができるようになる資質を身につけられるか?に関しては考えないのである。

介護の心は「天性の才能」「生まれ持ったもの」「その人に備わっている人間性」等といって片付けられることもある。 どうやって身につけられるかと問われたら、上述のように、芸術や人生経験で磨いていく等という抽象的な先送り論になることもしばしば見受けられる。

介護に関する一般的なイメージとして介護の心のようなものはすぐに思い浮かぶだろう。

私はこのブログを書き始めた頃から『介護の専門性』にこの『介護の心』は必ず含まれると考えていた。しかし、介護の心=介護の専門性では無い。介護の心は介護の専門性を構成する一つの柱にすぎない。

介護の心は介護職が、介護という仕事を通じて、現場体験を通じて、また知識・技術・理論を交えながら、深めていくものである。

それを天性の才能として片付けてしまい、どうすればそれが身につけられるかまで深めることをせず、思考停止状態に陥り、介護の心が無いと自分が見えるものを単に批判するだけの堂々巡りに介護業界は陥っていないだろうか。

そろそろ止めないか。

介護の心とは一体何であるか、それを介護を志す誰もが身につけられるにはどうしたらよいか、を考え、介護職が介護職全体で、研究者や識者、他業種から学びながら、深化させていかないか?

介護の専門性は、介護職全員で積み上げていくものなのである。

その2に続きます。

※本稿は、金山峰之さんからの寄稿記事です。2010年11月14日に、ご自身のブログ「介護の専門性新提案」において、掲載した内容を一部編集の上、掲載しています。