■病院での画一的介護への違和感

編集部:本日はどうぞよろしくお願い致します。 山田 :よろしくお願い致します!

編集部:まずグレースケア機構に入った経緯を教えてもらえますか? 山田 :はい。わたしが介護を始めたのが、デイサービス(定員28名)で、そこで7年勤めました。管理者までやることになったのですが、そこで、相談依頼が増えてきました。利用者の疾病などの知識が乏しかったので、経験・知識を広げていきたいと思い始めて、少し違う場所で働いてみたいということで、医療法人(療養型の病院)に就職しました。

編集部:なるほど。 山田 :療養型の病院は、高齢者の方が入院する病院になります。1つの病棟に60人の患者がいて、ほとんどの方が寝たきりで胃ろうや痰の吸引が必要な方と、認知症があっても車いすで自走ができるような比較的お元気な方もいた場所です。病院なので、全部やることが決まっているので、時間どおりに業務をこなすような感じでした。

編集部:はい。 山田 :初めて胃ろうする人に接しましたし、大人数を見たことはありませんでした。胃ろうの管を抜かないようにミトンをつけ、外さないように管理する。いかに時間通りに終わらせるか?に追われていた日常でした。

編集部:そうだったんですね。 山田 :「ご飯が美味しくないので違うものを食べたい」「外の空気吸いたいな」と言われた時もありましたが、「病院のルールだからできないよ」と言っていました。慣れてきた頃「息が詰まるな〜」と感じたり、利用者の人も「不満があるだろうな」と感じたり・・・いろいろな違和感が出てきた頃でした。

編集部:何か象徴的なことはありましたか? 山田:例えば、7時に朝ごはん、11時に昼ご飯を食べる人もいて、特に朝は眠そうでした。「あ〜ご飯食べよう!」と前向きな人はいません。私たちも10-15分くらいで食事介助をしていました。段々と「この方たちって、時間に追われる必要があるのだろうか?」という疑問を感じるようになりました。売店に売っていないもので「コンビニで買ってきてよ」となっても、病院や家族の許可が必要、というのがずっとあり・・・上司にも提案しましたが、なかなか変わりませんでした。

編集部:なるほど。 山田 :機械浴と一般浴の人、両方いましたが、徐々にスタッフの配置ができないので、またげたり、歩ける人も、全員機械浴になってしまい、すごく嫌がっていたり「怖い怖い」と言っているのを見たり。

編集部:そうだったんですね。 山田 :本来、お風呂は「さっぱりして心地いい」というものだと思いますが、湯舟に浸かっていた方も、スタッフの人数が足りないために、業務を簡素化にする理由でストレッチャーに乗せてシャワードームに寝たまま入る。そういうのを見ていているのが辛くなってきました。外に気軽に出かけたり、空気を吸いに行くこともできないんですよ! 自分たちの業務を邪魔する利用者は「迷惑な人」という感じになっていて。中には、手が出てしまう人もいたり・・・そういうことが重なって、ストレスも限界になってきてしまったんです。

編集部:なかなかの環境ですね・・何か転機はありましたか? 山田 :たまたま休憩室にあった、ブリコラージュを読んだことです。それから、「それぞれの居場所」という映画を見るきっかけがあり、そこでは「そういう普通の家で、普通に過ごす」様子を見たりしました。特に「いしいさん家」が衝撃でした。

編集部:そうなんですね。 山田 :ちょうどその頃、2011年の東日本大震災があって、そこから宮城県女川町でボランティアをすることになりました。その療養型の病院をやめて、半年くらいボランティアをしていました。その時は、介護に対して嫌な気持ちと言うか、「自分が関わることで不幸になるんじゃないか?」と思っていた頃でした。

編集部:なるほど・・・ 山田 :そんな中、ボランティアで一緒に関わった人はデイサービスの職員の人たちでした。ご家族が津波の影響で見つからない人たちで、そんな人たちがボランティアをしていました。その様子を見て、自分も少しずつ介護をもう一回やろうという気持ちになってきました。お金も無くなってきたし、そろそろ就職しようという感じで。

■最初は経験が全く活きずに辞めようとすることも

編集部:そうだったんですね。 山田 :いろいろと施設などを見ましたが、なかなか入りたいところが見つかりませんでした。「いしいさん家」にも行ってみたいと思いましたが、その時はすでに出来上がっているように見えました。そんな時、武蔵境の「とうきょう地域ケア研究会」で、三好春樹さんの話を聞きました。その二次会で、グレースケア機構の柳本さんに出会いました。

編集部:そういう繋がりなんですね! 山田 :他の方からも「介護職なら仕事はどこにでもあるじゃん」と言われたりもしましたが、その頃は、本人が選べる暮らし「家にいたいなら家に」「1人で寂しいなら施設に」と言う感じで、選択肢の幅があっても良いと思っていました。

編集部:なるほど〜。 山田 :ちょうどグレースケア機構でも、この話は頓挫していましたが、お家を借りてサービス付き高齢者住宅をやるという話があると聞き、「そういう話があるから、一緒にやりましょう」と言われて、入社することにしました。

編集部:そうだったんですね。その当時の柳本さんの印象は覚えていますか? 山田 :印象はよくなかったんですよね(笑)。本当に介護職なの?と思いましたし、その懇親会でも、40人に対して、名刺配っていて「怪しすぎる」と思いました(笑)。

編集部:そうだったんですね。それでも入社したんですね(笑) 山田 :訪問というのがわからなかったので「とりあえずやってみよう」という感じでした。

編集部:なるほど。入ってからはどうでしたか? 山田 :やり始めてから「家での暮らしは全然違う」と感じました。ベッドの具合も違い、道具の有無も全然違います。やりやすくない環境です。最初は、全然病院と違う、という衝撃を受けました。

編集部:そうですよね・・・! 山田 :最初はALSを抱える方に同行し、受け持つことになりました。通常、3回くらい同行してできるようになるのが普通なのですが、全くできるようにならず、何もできない自分に嫌気が差しました。最初の1ヶ月は「今日もできなかった」「次の日もできなかった」という感じでした。同行しているヘルパーの方も「いつになったらできるのか?」と心配している様でした。利用者の方はもっと不安な表情で。毎日「自分が入らない方がいいんじゃないか?」と思っていました。

編集部:なるほど。 山田 :「こんなに同行してもらっても出来てないので、グレースケア機構の仕事できません」と、2ヶ月くらいして、代表の柳本さんにメールしたくらいです。

編集部:おお、そうなんですね!それでどうなったのですか? 山田 :「いやいや。トンネルの向こうが見えてきてますよ」と言われました。そして「週末にその家族にあって、リラックスして話しましょう」という提案を受けました。過去には、そのお子さんが出勤前に介助していたと言うこともあり「介護職でなくてもできていたことだし、ご家族に聞いてみましょう」ということでした。

編集部:そうなんですね。 山田 :娘さんに手伝ってもらって、その週末に手応えを感じることができました。そして実際にやってみたら出来たんです! そこからは1人訪問となりました。プレッシャーもずっとあったように思います。

編集部:そうだったんですね〜。そこからは、在宅への対応という点でのご苦労はなかったんですね? 山田 :そうですね。利用者の家族から嫌われて「もう来ないで」と言われたりはありましたが(笑)。利用者の方からはありませんでした。相性の問題とかはもちろんありますよね。その辺りもわかってきました。

編集部:そうすると、柳本さんへの不信感も、その頃には無くなったのですね?(笑) 山田 :最初だけですね(笑)。先程のケースでも、ご家族に助けてもらうという選択を取ったり、本当にプラス思考なので・・・そのあたりは尊敬しています。

■施設には施設、在宅には在宅の良さが。それぞれの暮らしを面白がれる人に来て欲しい

編集部:ありがとうございます。よかったです(笑)。グレースケアで8年ほど勤めてこられたということで、いまは「となりのでこちゃん」の管理者も担われています。今後、こういったことをしていきたいと言うのはありますか? 山田 :「いしいさん家」をみていて思いますが、子どもや障害者、家族会を巻き込んだり、地域に出て地域の仕事をしたり。街の中でいろいろな関わりをしています。それを目指していきたいですね。介護施設・事業所って中はどうなっているのか? そういったことを知っていただけるきっかけを作りたいです。そのためにはどんなことでもやっていきたいと思っています。

編集部:素晴らしいですね。 山田 :また「介護の仕事しています」というと、間違いなく「大変な仕事だよね」と言われます。私は、大変と思ったことがないんですよね。でも辛いとか、マイナスイメージが多いです。自分たちが楽しそうにしていれば、面白がっていれば、そう思われないかなと思っています。もっとそういった魅力の部分を、自分も発信していきたいです。

編集部:いいですね。 山田 :グレースケアのスタッフは、年齢層も高めです。経験者とともに、若い人にももっと入ってきていただいて、新しい担い手を増やしたいと思っています。

編集部:なるほど。働く人にとって在宅ケアはどんな魅力があるとお考えですか? 山田 :私は入社前まで、集団ケアをずっとやってきました。人の暮らしは本当はものすごく多様なものですが、集団のなかでは一人ひとりに合わせたケアをするのは難しいです。病院の時は「今まで長生きしてきたのに、こんなにいろいろ制限されて・・・」と思っていました。グレースケアでは、いろいろな自宅を訪問するようになって、例えば「時間になって訪問しにきたけどいない」とか「今日は来て欲しくない」と連絡があったり。ゴミにしかみえないものに囲まれてそれでも満足して、ゆったり暮らしている人がいたり。施設で私物持ち込めます!なんていう世界じゃなくて、その人の世界にこちらがお邪魔しますっていう感じです。振り回されて大変だったりもしますが、逆にいえばその人が自分らしくできているということ。家族や友だち、近所の人たちも登場して(笑)、いろんな思惑もからむ人間模様があったり。でもそれが普通の暮らしですよね。高齢者は積み重ねてきた歴史も半端ないですし、難病や障がいをもちながら暮らす人の生活スキルなども凄い。学ぶことはたくさんあります。そんな体験ができるのが魅力ですね。

編集部:なるほど。ありがとうございます!向いている人などは有りますか? 山田 :面白がってやれる人、ですね。本当にいろいろな方がいて、相性もあります。施設で10数年経験のあるベテランでも「来て欲しくない」と言われたり、逆に経験がなくても「教えてくださ~い」で気に入られたり。いろいろなヘルパーがいた方が、いろいろな人の暮らしに合わせていけるし、1つの正しい生活なんてない!ってことを面白がれる人がいいですね。

編集部:素晴らしい締めになりました。最後に一言お願いいたします。 山田 :訪問介護は、施設と比べてハードルが高そうに思われるかもしれませんが、グレースケアは同行や研修があり、仲間もいます。人の暮らしや街としっかりつながっているところが面白いです。不安がらず、飛び込んできてほしいです!!

編集部:ありがとうございます。今日はグレースケア機構の山田さんにインタビューでした。ありがとうございました!