「"お困りごとからお愉しみまで"多様なグレースケア機構の事業」自費中心のケアサービス・指名制ヘルパーに挑戦するグレースケア機構代表柳本さんインタビュー前編

編集部:今日は柳本さんにお話を伺っていきます。宜しくお願い致します。

柳本:宜しくお願い致します。

編集部:まずグレースケア機構について、教えてください。

柳本:はい!グレースケア機構では、自由で多様な自費サービスを実践しています。お困りごとからお愉しみまで、必要に応じて必要なだけがモットーです。本当は施設や病院ではなくて、家で気ままに過ごしたいと多くの方は思います。障がいや病気に関わらず、最期まで住み慣れたところで、愉しく暮らせるように支えたい、そんな思いでやってきました。

編集部:はい。

柳本:介護保険などの制度ありきで考えると、人の暮らしを細かいルールや事業者の都合に合わせがち、です。本来はまずご本人の生活ありきだと考え、それに応じて、自費や使える制度を組み合わせようと考えます。今の仕組みは「利用者にとって、生活が制限される」「介護職は忙しく、やりがいがもてない」「支え合いの仕組みが不十分」というネックがあります。いろんな可能性があるのに、やれない/やらない理由ばかりが幅をきかせて、諦めることの多い現場はとても残念です。

編集部:なるほど・・・。

柳本:先ほどお伝えしたように、お困りごとからお愉しみまで、自費を中心に制度を組み合わせてトータルで取り組んでいます。趣味や観劇、旅行など「娯楽ケア」のほか、「仕事」のアシスタントもします。ショートステイも施設ではなく、ホテルにポータブルトイレを持参して行ったり、ご家族の代行で入退院の手続きをしたり、お金の管理をしたり、ご近所関係の仲介なども、やりますね。

編集部:幅広いですね!

柳本:「認知症ケア」というと、デイサービスを使い、ショートステイが入り、最後は施設というルートがお決まりですが、自費で一緒に自由に出かけたり、若い方とはプールに行ったり、元教授の自分史をまとめたり、いろいろしています。あとは「医療的ケア/リハビリ」として、たんの吸引や胃ろうからの栄養、自費の理学療法士によるお出かけ、最近増えている看取りなどです。訪問診療の医師と看護師が入りながら、夜間や日中、長時間ヘルパーが付き添ったりします。それ以外には「障害・難病、子どものケア」。特に医療的ケア児は、家で支える人材が不足しており乳幼児のご家族をサポートをします。また知的障害や発達障害のある人の移動や生活支援も行っています。

編集部:だいぶ多様ですね・・・!

柳本:そうですね(笑)。指名制で希望の多かったものから、整理収納や片づけの得意なスタッフで「片づけ事業部」を始め、料理好きで飲み込みや形態に配慮する食事をつくる「おいしい事業部」、旅行の企画や付添いを行う「おでかけ事業部」、ほか「ロボット事業部」などもあります。また、個別のケアだけではなく、まちなかでの支え合いが大きなテーマです。民家を使った看護付きシェアハウス「ナースさくまの家」や泊まり付きの小規模デイ「となりのでこちゃん」などで、まちとつながった住み家や泊まりの場を実践しています。

編集部:なるほど〜。

柳本:ほかに子どもと大人の遊び場「くまちゃんハウス」というフリースペースがあり、地元の農産物を屋台で小学生が売ったり、裁縫好きなおばあちゃんたちが請負仕事をしたり、みんなのお勝手と称した誰でも来れる食堂なども行っています。

編集部:とても幅広いということがわかりました!自費・指名制ヘルパーの利用料について、詳しく教えてください。

柳本:利用者負担は、介護保険であれば身体介護で1時間400~500円で済むところ、自費であれば3,500円(定期利用で3,200円)です。「お金のある人はいいけど、格差を広げる。公平ではない」と言われたりしますが、それは逆です。

編集部:どういうことでしょうか?

柳本:内閣府のデータなどでも、資産を持ち支払い能力のある高齢者は2割ほどいます。他方で賃金が安く生活に困っている介護職は全体の4割くらい、です。むしろ自費サービスを通じて、直接対価を払う形でお金の流れを作り、現場の介護の担い手に還元していく方が、格差を縮め、社会的な助け合いにも適います。繰り返しですが、貧困/低所得の方に対しては、社会保障できちんとまかない、お金を持っている人には、ケアの内容に応じたお金を払うことで、介護職も安心ですし、質の向上にもつながります。利用者にも選択肢が広がりますよね。

編集部:なるほど。

柳本:私たちのようなNPOがやらなくても、すでに家事代行や警備会社、電鉄会社、便利屋のフランチャイズなどなど、大手企業が自費系のサービスはやっています。ただ料金は同じくらいかより高く、介護関連の資格を持たないスタッフが対応しており、時給は低い。その分企業の利益や営業・宣伝などにお金が回っている。そこは働き手により多く還元することが大事だと思います。指名制ヘルパーは利用者に20%増で支払いをお願いしており、その20%は介護職の給与に反映されます。「良いケアには良い報酬を」という考えです。質を上げていくモチベーションにもなります。

編集部:よくわかりました。ありがとうございます!!

柳本:まとめると、設立から12年余り、「お困りごとからお愉しみまで」「住み慣れたところで最期まで」「ケアの担い手も働きやすく」という3つの柱で、「できない理由よりもするための工夫を」探し、実現できるように様々取り組んできました。おかげさまで、利用される方も年々増えて400名近くになり、ヘルパーも160人に上ります。毎月のようにやりたい!という仲間が加わってくれるのが心強いです。トータルに生活をみれること、専門職として、そして人として、柔軟に関われる裁量を持てることがやりがいになっています。

編集部:基本的なことがだいぶつかめました。続きは後編「介護を通じて付加価値を提供し、利用者・担い手ともに豊かに」で伺います!