「介護を通じて付加価値を提供し、利用者・担い手ともに豊かに」- 自費中心のケアサービス・指名制ヘルパーに挑戦するグレースケア機構代表柳本さんインタビュー後編

前編「お困りごとからお愉しみまで多様なグレースケア機構の事業」 はこちら

編集部:基本的なことがだいぶつかめました。今注力している事業は何でしょうか?

柳本:ケアサービスですね。研修事業やまちづくり等もやっていますが、それもケアに生かせています。ただ依頼が増えて組織自体も大きくなったので、体制作りにも力を入れています。2016年からテレワークを導入し、ICTを活用した介護記録、スタッフ間の情報共有の仕組みなども工夫を重ねています。

編集部:求めている介護職はどんな方か、というのはありますか?

柳本:基本的にはどんな方でも。なるべく多様な人材がいることが望ましいと思っています。その上で3パターンくらいでしょうか。1つは「経験者」で、施設の介護職や病院の看護助手などを長くやってきて、次のステップとして取り組みたいという人です。在宅の分野で「自分の介護スキルを試してみたい」とか、「本気で利用者一人ひとりの願いに応えたい」というような方のイメージです。

編集部:なるほど。

柳本:在宅の場合、本人や家族の慣れたやり方があり、ベッドの位置やオムツの使い方などもさまざまです。施設とは違って効率や安全衛生の面では至らないことも多い。でも、暮らしの場であり、その人にとっては居心地のよい大事な空間です。それをまずは尊重して、折り合いながらやっていく。基本的なケア技術は必要ですが、いわば「野生の場」に飛び込むスキルも必要です(笑)。

編集部:面白いですね!

柳本2つ目のパターンは「一芸がある方」でしょうか。先日は相撲が好きな介護職が、相撲ツアーを企画して一緒に出かける人を募っていました。車いす同行だと国技館が安いとか(笑)。また、中国出身の90代の高齢者の方には、中国語のできるヘルパーが行って話し相手になっています。介護は基礎資格として、プラス自分の好きなこと、特徴を活かせると面白いし、利用者の多様な趣味や希望にその分幅広く応えられます。ヘルパーのなかには他に、フランス語やスペイン語ができたり、俳優やダンサー、僧侶に浪曲師までいますが、さすがにまだ浪曲師の依頼はないですね(笑)。

編集部:いろいろあるのですね...!

柳本:そして最後が「未経験の方」です。はじめから施設やデイが肌に合わないと感じる人もいます。いまグレースケアで拠点長をやっている人は、初任者研修の実習で1回施設を見ただけで嫌だと思い、以来訪問介護一筋。未経験者も一から同行を重ねれば、在宅からスタートすることができます。「さくまの家」「となりのでこちゃん」など他の事業で経験を積む機会もあります。

編集部:逆に、在宅だと何かできないことなどはあるのでしょうか? 柳本:自立支援や夜間対応などは施設の方がやりやすい面もあります。必ず夜勤者がいて、必要に応じて排泄ケアができ、オムツに頼らずにリハパンや布のパンツを維持することもできる。在宅でも夜間泊まることもありますが、夕方訪問したあとは翌朝まで一人とか、家族が介護できずにパッドをぐるぐる入れておくなんてこともあります。本人がそれでも自由気ままにできるのが在宅のよさだと思っていますが。

編集部:なるほど。ありがとうございました。指名制ヘルパーは興味深い取り組みですが、なぜ広がらないと感じますか?

柳本:指名制ヘルパーの前に、そもそも自費で取り組むところが少ないと思います。よく言われるのは「指名制・自費は、利用者の方にいろいろわがままを言われるのでは?」という不安ですね。「人がいないのに、そんなことまでできない」という声も。私としては「働き手がいないからできないのではなく、やらないから働き手が来ない」と思います。本当は利用者一人ひとりの思いを叶えたいとか、個別の生活に入り込んでトライしてみたいとか、そう考えている介護職は少なくありません。そして人材不足なら給料は上がって当然なのに、保険報酬内では頭打ち。自費なら質とともに報酬を上げていくこともできます。

編集部:なるほど・・・。

柳本:あとは「内容への懸念」でしょうか。自立支援ではなく、依存させる支援になるのではないか? 指名を受けたいがために、ケア的にやり過ぎてしまうではないのか?などと想像してしまうのだと思います。そんなことはないのですけどね。そもそも「自立支援」がADL自立だけだったり、ケアプラン信仰のもとに形式的な文書主義が横行している方が、よっぽど問題だと思います。

3つ目は「お金に対するためらい」。旧来の福祉的な視点からは、高齢者に可能な限りお金を払わせない方が良い、と思い込んでいる面があります。もちろん低所得や貧困世帯の方々には、社会保障を充実していくべきです。一方、それなりの所得や資産がある人にまで、全て同じ水準におとしめてやる必要はない。残念ながらケアマネジャーの中にも、本人の選択より制度内に収めることを優先する人がいます。

編集部:確かにそれはありそうですね。

柳本:また、介護職自身の考え方の問題もあります、自費を担ったり指名されるようなスキルがないという思い込み。医療や看護よりも本人の生身の生活に深く入り込んで、人生の一端を支える介護職の果たす役割は大きいです。しかし、社会的には単純な肉体労働とか、仕事のない人が選ぶ仕事、のような根強い偏見がある。それを内面化してしまい、自分たちを卑下してしまっている側面もあります。そこはあらためてエンパワーメントが必要だと思っています。

編集部:これまで事業成長を続けてきていますが、今後はどういう事業展開をお考えですか?

柳本:大きくしようと思っているわけではありません。利用者のニーズに応えてきた結果、気がつくと広がっていました。今後も事業規模を大きくすること自体は目的とせず、利用者のニーズに応えたり、ケア専門職のやりがいを後押ししたいと思っています。あとはまちに根差したつながりを深めたいです。

編集部:そうなのですね。そうすると、今後も採用は重要になりますね。

柳本:はい。まだまだ自分たちの取り組みは知られておらず、そこが課題だと思っています。本来は介護の人材は不足しているので、その価値は上がっていくはずです。まっとうに評価されるように、自分たちも質を上げながら、利用される人も現場の担い手も共に豊かな暮らしが実現できるよう取り組んでいきたいです。ぜひお仲間に!

編集部:よくわかりました。ありがとうございました!