インタビュー記事前編「ボトムアップで、施設方針の言語化と浸透にチャレンジする」はこちらです。

■麻生施設長「今後の施設内の世代交代を念頭に、はちす8つの誓いとケアのルールブックを策定」

編集部:前編では、はちす苑の介護の質向上の過程や、方針の言語化のきっかけ等について伺いました。麻生施設長から見た、この方針の言語化の意義はどんな風にお考えですか?

麻生 :私は、はちす苑のオープニングスタッフで、本部経験なんかも3年ほど挟みながら、20年はちす苑に関わっています。振り返った時に、開設当初からケアの水準は大崩れしていませんでした。これは運が良かったんだと思います。その中で、経営理念はいい言葉でしたが、当時いた職員はわかっていても、新人に届いているかというと、そうではない面もありました。

編集部:なるほど。

麻生 :本当に運が良かったです。昔からいた職員が今もいて、現在の職員も7-8年間は務めた職員が中心です。これまでは、異動が発生していませんでしたが、これからは、異動や退職も当然発生すると思います。そういった今後の世代交代を考えて、危機感もあり、よりちゃんと浸透させたいと考えていました。その中で、ボトムアップで、こういった取り組みをやりたいと声が上がったのは、本当に良いタイミングでした。

■麻生施設長「バッファロー介護にはならない」

編集部:確かにそうですね・・・!常に先手を打たれている様子が伺えて、素晴らしいなと思いました。逆に、今感じる課題はあるのですか?

戸室 :はい、もちろんあります。指針は改めてできましたが、実際の業務とのGAPはあります。いま、職員アンケートを通じて、どこができていて、どこが業務に追われて出来ていないか、を取っています。毎月会議をしながら、1個ずつそれに対応している状況です。思いが先行している状況はありますが・・・そういった理想と現実が入り混じっている感じですね。

編集部:そう簡単ではないですよね・・。

戸室 :日々の業務への落とし込みは、もっと入っていく必要があるかなと思ったりしています。あるべき理想から現実落としていくのは、難しいところはあるかもしれません。この方針の言語化と浸透は、プロジェクト委員6名と看護師の体制とお伝えしましたが、業務の都合で6名は難しくても、各街1名ずつは最低集まるようにするなど、完璧ではなくても、少しずつ修正しながらやっています。

編集部:そうだったのですね。

麻生 :1人ひとり全てをやるのは難しいので、どこまで徹底するのか・・そこは話し合う必要があります。やるべき、が先行すると、大変なので、折り合いが必要だとは思っていますね。

編集部:確かにそうですよね。

戸室 :あと、看取りに関して、課題を乗り越えて、施設として多くの経験を積みましたが、改めて看取りに向き合う時期がきているかなと考えています。どんな方でも受け入れられる様になりましたが、看取り期にやれることは限られている中で、そうなる前から何が出来るか。看取りは、普段の生活と繋がっています。利用者の方が入所してきた時から、何が楽しみで、何が好きだったか、当然ご家族に聞きます。最期に何をするのか・・看取りはとても重要です。慣れ過ぎず、淡々と行うのではなく、見つめ直す時期だと感じています。

麻生 :数は少ないですが、ショートステイでも看取りをしています。これまで7~8人ほどありました。うち数名は特養入所待ちの長期ショートステイ利用者であっため、特養入居者と同じ形で対応しました。通常のショートステイで看取りを実施したのは3人です。ご家族がショートステイでの看取りを希望された理由として「本当は最後まで自宅で介護をしたいが、このような状態で介護することに自信がなく、怖い思いがあるので・・・」ということを話されていました。現場スタッフが、このようなご家族の思いを汲み取り、このような形での看取りケースを受け入れてくれたことは、良い経験になったと思います。

編集部:なるほど。そのくらいの体制が整っていながら、一周回ってそこに課題感を感じていらっしゃるという点が素晴らしいと思いました。

編集部:前回、介護職員の清水さんにインタビューをした際、未経験で入職してきた際、「早くやるのではなく、丁寧にやることを、何度も言われた」ということを仰っていました。これまでのインタビューからそれは何となく理解できたのですが、改めて、どうしてそういったことが浸透しているのか?、伺えたらと思います。

麻生 :そうですね。元々時間に縛られて動く介護職を、高口光子さんはバッファロー介護だと言っていました。要は「早番職員が来たら、夜勤職員は朝ごはんのために、利用者の方々を整列ができていないとダメ」に象徴されるような「後を残さない介護」「次の職員に、仕事を残してはいけない」という介護のことです。

編集部:初めて伺いました(笑)。

麻生 :それを早くできるのが、良い職員という時代が長かった様に思います。ただそれって廃れていくよね、と思っています。利用者の環境を構築できるのが、良い現場だと。昔の課長もそういった考えでした。

編集部:そうだったのですね。

麻生 :それにリスクの面もあります。やっぱり慌てると事故も多くなります。慌てるのはわかるのですが、それに伴った事故は、過去も多かったです。利用者の方に、大怪我負わせてしまったこともありました。

編集部:そうでしたか・・・。

麻生 :時間がかかるのは、しょうがないです。当たり前です。それなのに、最初から変な省略をしてしまうと、良い介護をできないと考えています。基礎をちゃんとやれる様になった上で、応用です。そこはいい意味での要領の良さが大事になってくると思います。先ほどの清水さんも最初苦労していたようでした。でも今は逆に、応用が大変うまくなりました。自分としてon/offがわかったようです。

編集部:なるほど。

戸室 :入社した最初は、戦力1として数えません。教える期間を、十分とっています。そのタイミングで教えて行きます。「30分で何人やる」という介護ではありません。はちす苑では「早くできなくて、迷惑かけてすみません」と気を遣ってしまう方は、逆に怒られます(笑)。もちろん全体が完璧ではなく、効率のほうに意識が行き過ぎてしまう職員もまだいますが、清水さんのケースではその最初の育成のところがうまく行った様に思います。

麻生 :そのやり方でも、意外と既定の期間内に、研修終わっていますね。

■麻生施設長「方針をみてピンとくる方は、はちす苑が合っている」

編集部:なるほど〜。考え方、よくわかりました。改めて、はちす苑ではどんな人が良い、というのは、ありますでしょうか?はちす苑の方針に共感する、というのが大事なのだとは思っておりますが。

麻生 :そうですね。共感する方の特徴・・・難しいですが、はちす苑の方針を見た時に、完全に腹落ちしなくても、楽しそうと思える人が向いていそうです。この辺りは、経験・未経験関係なくて、センスの世界かなとも思ったりしています。私自身も異業種です。今の主任も異業種が多いですね。

編集部:よくわかりました。そういった方にとってのはちす苑の魅力はどういった部分でしょうか?

麻生 :社会福祉法人愛光は、自由な法人です。「こうやらなければいけない」というのがありません。決まったものがあって、それをやればよいという所ではないですね。こういう考えを持っている中で、一緒にやろう、という感じになれるといいですね。

戸室 :働いていて息苦しくないですよね。逆にやる気がないと置いていかれる面があるかもしれません。型にはまったことが好きな人は、合わないかもしれないね。

編集部:方針や取り組みなどが一貫していて、とても理解が進みました。今日はありがとうございました!