■麻生施設長「目の前の課題に取り組んだ結果、理想のケアに近づく」

編集部:今日は、はちす苑の施設長麻生さんと、課長戸室さんに話を聞いてみたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。(トップに掲載の画像は、戸室課長の写真になります) お二人:宜しくお願い致します。

編集部:まず麻生さんに伺いたいのですが、はちす8つの誓いの内容は、いまどの程度実現できているのでしょうか?

麻生 :そうですね。特別養護老人ホーム(以下、特養)とショートステイ(以下、SS)で74床あるのですが、例えば入浴については、だいたい機械浴の利用率が10%前後という感じです。特養50床のうち、常時6人程度で、あとはSSの方ですね。SSの利用者には機械浴の希望の方もいらっしゃいます。

編集部:大変低い利用率ですね・・。 麻生 :そうですね。おむつは、日中と夜でどう見るのか?は違いますが、以下のデータを見ていただければと思いますが、だいたい日中は10%程度、夜はどうしても着用率は多くなり、50%程度という感じでしょうか。日中はリハビリパンツ(以下、リハパン)を使っている人は、ほとんどいないですね。寝たきりの人は、おむつにせざるを得ないですが。

編集部:そうですよね。 麻生 :排泄委員会のこだわりとしては、可能な限りトイレ誘導(ポータブルトイレ含)、通常であれば、オムツにしてしまいそうな人を、極力布パンツ+パッドで対応している、という点です。SSにはリハパンの方もいますが、特養だと数%という感じです。

ー (注) インタビュー後に、はちす苑の排泄係に正確な数値をお聞きしたところ、以下の通りだったとのことです。おむつ着用率は、常時おむつを使用で1回もトイレ誘導(ポータブルトイレ)に行かない方を、おむつ使用者としています。 ・おむつ使用者
(昼) 4人  5.9% (夜)20人  29.9%

・リハビリパンツ使用者 (昼・夜)5人 7.4%

・布パンツのみ使用者 (昼)7人 10% (夜) 6人 9% ー

編集部:なるほど。はちす8つの誓いはまだ作られたばかり、という様に伺っていましたが、すでにここまで実現できているというのが、とても驚きです。何か背景とか、要因はあったのですか? 麻生 :わたしは、はちす苑の新規オープニング時からいまして、途中異動で3年間他部署にいましたが、約20年の歴史を知っています。オープンした3年間は、例えばお風呂は、典型的な流れ作業でした。「個別ケア」という概念などがあまりなく、全然できていなかったです。

編集部:そうだったんですね! 麻生 :3年経ったくらいから、当時の課長の提案で個別入浴実践チームが結成され、チームが中心となり、個人入浴・マンツーマン入浴に、約2年かけて、変えて行きました。そこから個別ケア、その次は排泄ケア、その後は看取りケアと、順次変えていきました。たまたま目の前に直面した問題に取り組んだ結果、実現して行った、という感じで、全体像を最初から描いてやっていた訳ではありませんでした。

編集部:とても意外でした・・!トップダウンの方針とかでもなかったのですね。 麻生 :当時の課長の力量ですね。主任も、課長の動きに連動していて上手く進めていました。法人本部や施設長は自由にやらせてくれました。施設長は「いいことならやってみたらいいよ」という感じで、反対することはありませんでした。

■麻生施設長「看取り介護の導入は苦労が」

編集部:なるほど。 麻生 :当時の主任 看護師の力が大きかったですね。

編集部:苦労したところはありますか? 麻生 :入浴と看取りは大変でした。特に看取りは、開始当初3年間は大変でした。始める段階では、家族からの要望などもあり「とりかくやってみよう」という気持ちで始めたので、施設として「看取り」に関する知識があまりない状態でのスタートでした。

編集部:そうだったのですね。どう大変だったのですか? 麻生 :看取りなので、人の死を目の前で、現場の職員が見ていくことになります。徐々に老衰して亡くなるのは、ご本人にとっては、楽な亡くなり方だと思いますが、当時はそれを理解していませんでした。食べられなくなるので、点滴を必要以上に打つと、誤嚥性肺炎を起こすなど、状態がもっとひどくなる。そういうことに、現場の介護職員や看護師は直面する訳ですが、そのどうしようもない思いや不安をフォローする体制が整っておらず、当時の職員には、本当に苦労をかけました。

編集部:はい。 麻生 :看護師も大変で、何か根拠を持って、「大丈夫だよ」と伝えて、安心をさせることができませんでした。結果、介護職が利用者の方が亡くなられた時に、自分のせいだと思ってしまいます。「わたしがきちんとケアでいなかったから?」と思ってしまう。「苦しい、不安、つらい」という意見が多かったです。それは看護師も一緒でした。

編集部:そうですよね・・・。 麻生 :弱っていく方に対して、何をしていいかわからない。今はいろいろ勉強したり経験を重ねることで、「この呼吸は楽だから大丈夫」とか、言えるのですが、家族対応でも、ご家族にうまく説明できなかったりしました。全体として、職員やご家族の不安に対して答えられなかったような状況です。職員にアンケートとったら、マイナス意見しか当時はありませんでしたね。「わたしの夜勤で亡くなって欲しくない」という声が上がるくらいでした。

戸室 :そんな過程を経たはちす苑に、私は5年前に異動してきたのですが、その時は看取りの経験数があり、しっかりと対応できる様になっていました。受け入れはどんな方でもできる状況になっています。

■戸室課長「ボトムアップで、施設方針の言語化と浸透にチャレンジする」

編集部:そうだったのですね。入浴、排泄、看取りなど、一定以上できている中で、なぜ改めてはちす8つの誓いや、ケアルールブックを作ることになったのでしょうか?

戸室 :はい。私は元々20年障害の方にいて、先ほど申し上げた通り、5年前に高齢分野にいきました。高齢分野の知識がないため、最初は研修に参加する機会も多く、そこで駒場苑の7つのゼロの取り組みを見たんです。感銘を受け、実際の現場を見にいきました。

編集部:なるほど。 戸室 :はちす苑自体も、すでに当時から利用者の方と対峙して、利用者の方を大切にしている様子が見て取れました。特養という特性上、相手の残りの短い人生を大事にしているというか。アセスメントして、何ができるのか?をよく考えていましたね。職員中心ではなく、利用者中心に、ということが出来ていました

編集部:素晴らしいですね。 戸室 :ですが、その考え方や実践を、全員に広く、良いものとして知らせていくという周知・浸透の部分には課題がありました。どう伝えていくのか?現場に浸透させていくのか?・・・そういった中で、7つのゼロを通じた浸透のやり方を参考にしようということで「同じ様なことを進めたい」と私が提案して進めることになったという感じです

編集部:そうでしたか!進める過程で、上手くいかない点などありましたか? 戸室 :あまりなかったですね。まとめていく過程を、プロジェクトで進めて行きました。必ず主任(フロアごとに1名配置)を巻き込み、各街(注:はちす苑ではフロアを街という単位で表現する)から1名ずつ声をかけ、プロジェクト委員6名と看護師の体制でした。最初は広く意見をいろいろ出しながら、徐々に細かく定義していきました。

麻生 :私自身、最初の3-4回は入りましたが、後はサポートという立ち位置で進んで行きました。言語化が難しかったときに、プロの方を巻き込むなど、そういった支援をする感じですね。

〜後編「バッファロー介護は廃れる?ー 8つの誓いにピンと来るか」に続きます〜