その1はこちらから。
ここまで振り返るに、私たちは、Bさんという一人の尊厳ある人格に寄り添おうと懸命に頑張って寄り添うという冒頭の前者の接し方に終始していたのでした。
中にはどんなに寄り添ってもBさんに受け入れられず、関係が築けないことに落ち込むスタッフもいました。
そこで一歩引いて、少し冷静に、ドライに、Bさんの認知症の特性に焦点を当てて関わってみることにしました。そしてアプローチを変えてみました。
そのアプローチ法は実に単純です。
閉じられた質問(Yes,Noで答えられる質問)に変えたのです。
Bさん「助けてー!」
スタッフ「立ち上がるのを助けて欲しいのですか?」「背中の痛みを助けて欲しいのですか?」「飲み物を取ることを助けて欲しいのですか?」というようにです。
Bさんは一つ一つの閉じられた質問に対して「違う!」「そうだ!」と意志を表明してくださるようになりました。
つまり開かれた質問の自由度は今のBさんには混乱をきたすコミュニケーション手法だったのです。
ご本人の力や可能性を引き出す開かれた質問がかえって混乱を招いていた訳です。ご本人に寄り添おうという思いの先行が、認知症の特性を曇らせ、ご本人のQOLをかえって引き下げてしまっていた例です。
一人の尊厳ある人格として認知症の方と接することはもちろんです。
しかし、クリスティーンブライデンさんが来日して10年以上経過した今、認知症のご本人が訴えた言葉の衝撃はもはや新鮮なものではないはずです。それはすでに当たり前のこととして浸透し、私たちはそれを前提として、次のステップ「認知症の特性に応じた」専門的な介護を展開できるようにならなくてはならないのではないでしょうか。
一人の尊厳ある人格として尊重され、かつ、認知種の特性に応じた介護環境が整ったその先に、もっと認知症の人が当たり前に暮らせる社会が広がるはずです。
※本稿は、金山峰之さんからの寄稿記事です。2016年10月21日に、ご自身のブログ「介護の専門性新提案」において、掲載した内容を一部編集の上、掲載しています。
※ 金山峰之さんのプロフィール 介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員。法政大学大学院政策創造研究科修士課程修了。 在宅介護を中心に15年以上現場に従事。現在フリーの介護福祉士として、高齢、障害者介護現場の傍ら、介護人材の育成、講演、研究、コンサルティング等に従事