前回の記事「実務者研修からキャリアを考える①〜実務者研修の目的と背景〜」では、実務経験ルートの人が国家資格である介護福祉士を取得するために必要な「実務者研修」の目的や成立の背景について見ていきました。

今回の記事では、実務者研修に込められたねらいと、それを踏まえての介護業界におけるキャリアアップについて考えてみたいと思います。

実務者研修必須のスクーリング

さて、実務者研修は介護福祉の専門職として必要な体系的な学習をすることが求められていますが、一部科目などを除いて通信教育が可能であるということについて前回の記事で触れました。 では、この一部の通信教育ではダメな科目についてみていきたいと思います。 制度上は次のようになっています。

・ケーススタディ等による教育である『介護過程Ⅲ(45時間)』 ・医療的ケアのうち演習については面接授業により行う

このように『介護過程Ⅲ』という科目が狙い撃ちで「通信ではダメで、直接スクーリングで学習しなければなりません」と定められているのです。 (医療的ケアの演習もスクーリングが課せられているのは、利用者の生命を左右する、高度な専門性が要求される医療行為であることを鑑みると当然と言えます。)

つまり、実務者研修のカリキュラムのほとんどが通信教育で済む中で、医療的ケアを除いて、唯一スクーリングで学習しなければならないと位置付けられている『介護過程Ⅲ』は、制度設計上とても重要な科目であるということがわかります。

介護過程Ⅲの中身

この『介護過程Ⅲ』とはどんな科目なのでしょうか。 実務者研修のカリキュラム内容では介護過程Ⅲの教育内容を次のように記しています。

【教育に含むべき事項と教育内容】 ①介護過程の展開の実際  多様な事例を設定し、介護過程を展開させるとともに、知識・技術を総合的に活用した分析力・応用力を評価する。 ②介護技術の評価  介護技術の原理原則の修得・実践とともに、知識・技術を総合的に活用した判断力、応用力を評価する。

そして、この科目の到達目標を次のように記しています。

【到達目標】 ○実務者研修課程で学んだ知識・技術を確実に修得し、活用できる。 ○知識・技術を総合的に活用し、利用者の心身の状況等に応じて介護過程を展開し、系統的な介護(アセスメント、介護計画立案、実施、モニタリング、介護計画の見直し等)を提供できる。 ○介護計画を踏まえ、安全確保・事故防止、家族との連携・支援、他職種、他機関との連携を行うことができる。 ○知識・技術を総合的に活用し、利用者の心身の状況等に応じた介護を行うことができる。

いかがでしょうか。こうしてみると、通信教育などで学んだ他の科目の知識や技術を総動員して、実際に根拠ある専門的介護をリスクを抑え、家族や他職種、他機関と連携して実践できる力を身に付けることが求められていると言えるでしょう。

とても高い到達目標ですが、介護福祉士が単なる“食事、排せつ、入浴介護等のお世話”ではなく、多様な介護ニーズを持った利用者に対して、その尊厳と自立を支援するための専門職であり、それを目指すための総仕上げとして実務者研修が位置付けられていたことが、「介護過程Ⅲがスクーリングでなければならない」という制度設計からも見えてくると言えるでしょう。

今回はここまでになります。次回は介護過程Ⅲの位置付けを踏まえた上で、実務者研修から介護業界でのキャリアを考えていきたいと思います。